1998 Latin America: Balance and Perspectives, Progress, Difficulties, Challenges in Japanese

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「ラテンアメリカ、均衡と展望
-- 進展、困難、挑戦」

議長: ミゲル・デラマドリ・フルタド

1998年2月27日

メキシコ、メキシコシティ





 

民主主義と「統治」

成長と経済改革

国際社会への参加と競争力

生産の転換と技術革新

人的資源、貧困、不公平

将来を見据えて





1. 「ラテンアメリカ、均衡と展望 ― 進展、困難、挑戦」に関する専門家会議は1998年2月27日にメキシコシティにおいて開催された。添付した
参加者リストを参照のこと。また本議題の資料の要約および専門家会議に関する"El Economica"記事も同時に添付。

民主主義と「統治」

2. 民主主義の進展は、いくつかの国の例に見られるように、民主主義が単なるうわべだけのものになり、政府も一向に変わろうとしないという潜在的危険を含み、民主主義と政府との間に断絶を生じさせた。公式発言や公的活動には社会的ニーズを考慮に入れず、また諸機関にはとがめは受けないだろうという感覚が広まっている。従って、相互依存の変数として、政治的「統治」、経済的競争力および社会的統合を融合させる必要がある。この目標を達成するために、ラテンアメリカ社会は足並みを揃えて民主的自己統治の能力を強化し、経済的競争力を増進し、社会的排斥や貧困に関連する主要問題と正面から取り組んでいかなければならない。さもなくばこの地域は、民主主義の近代国家群に属する上でより一層の困難に直面することになろう。

3. ラテンアメリカは、他の非OECD地域と同様に、制度的変遷の過程にある。この過程において基本となるものは、確実に機能しているプログラムは無視せず、いまだ欠如している部分を創出することである。この文脈の中で、市場制度を規範に従いかつ有効に強化することが重要であり、それによって市場は真に機能し、発展するだろう。例えば、対外貿易に関して、ラテンアメリカ経済は開放されたが、生産と貿易がこれまで以上の一致を見せ、うまく統合されるためには、生産基盤をさらに強化していかなければならない。

4. 市場経済は、必要な規則やガイドラインを策定し有効に機能する市場が必要とする諸制度を創設するために、国家が参与することを求めている。さらに、国家は市場の欠点を克服し、所得を再分配し、貧困と闘わなければならない。従って、国家と市場の十分な均衡は絶対的必須条件である。

5. ラテンアメリカは、自己の威信が地に落ち、失策全てが非難されていることから、民主制度を改善する必要がある。ラテンアメリカにおいて制度の改善は最優先的課題である。それは、政治改革を行えば立法機関が行政の力に対抗することが可能となり、各立法の過程がより効率的になることを意味する。政治団体のために共存と義務の規範を設定すべきである。それによって政治団体は問題を悪化させるのではなく、解決することができるようになる。ラテンアメリカの経験によると、政治団体はその第一義的機能の一つ ― つまり社会的要請との相互関係 ― に呼応できないでいる。翻って、労働組合は時代錯誤となりつつあり、その正統性を失いつつある。合意済み条件を遵守しない不快な政党に対する明確かつ有効な制裁システムを含む政治改革もまた必要不可欠である。

6. ラテンアメリカが取り組まなければならない最大の挑戦の一つは、統治能力を保証するために発想の妥当性と実行の妥当性を融合させることである。

7. 決定的かつ制御された基盤を持たずしかも歴史的経験を無視した民主主義の試行や実行は、統治能力を無力なものにしかねない。政府の権限をある程度制限し、立法府により大きな権限を付与することは、過剰な「議会主義」とそれに伴うマイナスの結果に導びつくかもしれない。他方、法案策定の過程を有効に組み込まない議会は、修辞学的性質に陥りかねない。

8. メディアの重要性が増しつつあることは、メディアが各オーナーの利益しか考慮に入れないことから、大きな懸念を呼ぶ問題である。その結果、メディアの力が強まっても常に良い成果を生み出してはいない。

9. 公的行動より変化する世論の傾向を重視する危険は常につきまとうが、政府関係者は投票に注目するよう進言する。なぜならば、投票はかなり移り気なものであり、またメディアからのメッセージに大きく左右される傾向にあるからである。

成長と経済改革

10. 現在の戦略が持続可能で公平な成長をもたらすには不十分であることを立証しているために、構造変化の過程は補足されるべきである。最近の功績が安定した条件の中でなされたことを尊重し、改革および成長政策を実行する上でこの挑戦と取り組んでいかなければならない。マクロおよびミクロ経済の要因がいかに相互に影響しあい、マクロ経済の一貫した制約がいかに相互を条件づけているかを理解し、また改革の過程と生産の基礎的作業における重大な変化によって生じた不均衡について理解することが重要である。

11. ラテンアメリカの問題を地球上の他の諸国の問題と切り離すことができないことから、開発政策の世界的概念は変更されなければならない。この文脈において、国際組織の機能修正は極めて重要である。政府や社会の刷新努力に寄与することにおいて、国際諸機関が取り組むべき問題に対するこれら諸機関の欠陥は明らかである。

12. 全てを手にすることのできる国など一つもないことから、関係者全てに責任をあてがう長期的総意を取り付けることが不可欠である。これは全ての経済の相互補完性を認識することを意味する。

13. 最重要諸国の経済政策の変化もしくは世界経済が国内にもたらす衝撃は、ラテンアメリカ経済に直接的な影響を及ぼす。これは、政府がマイナスの効果を中和する適切な政策を創出し採用するためにも難局と取り組まなければならないことを意味する。政府は孤立しないためにも最善を尽くして適切な手段を採らなければならない。

14. 1980年代から90年代にかけて世界的な変化が起こり、これは当然ラテンアメリカにも影響を及ぼした。この地域における変遷の過程は、一夜にして訪れるものではない。従って、ラテンアメリカはこうした構造変化による利益も得たが、代価も払っている。

15. 多くの諸国における民営化への過程は、現実的な目的 ― 時には相反する目的 ― を達成するとみなされる複雑な作業であるために、真の変遷をもたらしていない。にもかかわらず、考慮すべき基本的問題は社会的公平と効率である。

16. 成長と公平の間に補足的領域をもたらす経済政策さえ実行されれば、成長と公平の間に矛盾は生じない。つまり、寛容しうるマクロ経済の均衡、人的資源への投資、生産的雇用の増大と持続を探求する政策、急進的かつ大規模な技術のノウハウを確保することである。

17. 金融グローバル化のダイナミックスを国家経済に採り入れるために、細心の注意を払って計画された金融規制緩和手段を実行に移す必要がある。これは、支払い能力のある効率的金融機関を持つために金融システムを強化する必要があることを示唆している。ある意味で、金融の規制緩和は組織された金融の開発を補給する。「資本の管理に意味はあるのだろうか?」という疑問に対する答えは、金融および資本の流れのグローバル化は規制の如何にかかわらずラテンアメリカ諸国に影響を与えることから、単純とはほど遠い。いずれにせよ、とりわけ短期の投機的資本がかかわる場合にはその答えは肯定的なものとなる。

18. ラテンアメリカ諸国の中央銀行は、この地域の金融の脆弱性を強化する方法を学び、運営方針を改善するメカニズムを創出することが望ましい。

国際社会への参加と競争力

19. 世界経済における変遷は、現在われわれが経済的相互依存の下に生きているが故にラテンアメリカにも影響を及ぼしている。これは、各国政府に資本の恒久的流入、マクロ経済の安定化、競争力のある為替レートおよび貯蓄・投資の過程を強化するよう圧力をかけている。脆弱性は主権国家が受けるリスクに比例することは真実であるが、世界経済のダイナミックスを鑑みて、ある国が自国を守るためにとる意思決定の余地も僅かであることも真実である。

20. アジア危機は、ラテンアメリカを対外不均衡や不安定化という危険にさらさせた。これは、財政緊縮は必要であるし、少なくともある部分国内に与える衝撃効果を緩和する方法としてそれは維持されるべきであろうという明瞭な警告である。本年は、アジア危機の衝撃が不安定な国際資本市場に連動して天然資源やエネルギー価格の下落をもたらし、またそれに関連する国内部門などラテンアメリカの脆さを助長させることになろう。1998年にラテンアメリカが必要とする外部からの資金調達は1000億ドルないし1997年の25パーセント増しと予測されている。それを獲得するのは容易ではないだろう。

21. 金融投機は経済の実体に影響を与え、国家経済の堅実性あるいは悪化といった現象に結びつく。経済が健全で行政が優れていても金融不安による影響は避けられない。高水準の国内貯蓄率と外貨準備高、緊縮財政、時代遅れの為替レートの回避およびとりわけ厳しい規制と監督は金融不安が生じた時に脆弱性を緩和する主因であると証明されているが、そのような不安による影響から完全に遮断されることは不可能である。

22. ラテンアメリカは現在のアジア危機、あるいは1980年代の債務危機といった外的要因に対して自己防衛の体勢を今ではかなり整えてきてはいるものの、十分ではない。しかしながら1994年のメキシコ危機から学んだ教訓は、1997〜98年に生じた新たな危機がもたらす衝撃を緩和している。

23. 地域統合は重要であり、共通の立場を明確にするためにもこれは強化されるべきである。ラテンアメリカが一見解を示せば、われわれはもっと多くのものを入手することができる。こうした統合によって、国際的参加をラテンアメリカはより効率的に進められるだろうし、この目標はすでにいくつかの諸国が達成している。ラテンアメリカで現在統合を目指しているさまざまな動きのうち、5つはとりわけ経済がかなりの部分関連することから重要である。それらは、米国、メキシコおよびカナダが調印した自由貿易協定(NAFTA)、メルコスール、アンデス協定、中央アメリカ共同市場(Mercado Comun Centroamericano or MCCA)およびカリブ海共同体 (Comunidad del Caribe、CARICOM)である。貿易ブロックへの参加は生産部門の開発に影響を与えている。望ましいと考えられる経済区域の分裂という危険に鑑み、サブシステムあるいはサブ経済区域形成の必要性が注目されている。同地域のために提案される構造形態は、サブ地域経済区域が形成される方法に照らして、しばしば相互収斂性と呼ばれている。

24. ラテンアメリカ内部では、各国間の関係をより深くみつめる必要がある。まだ統合されていない諸国に何が起きるのだろうか。

25. ラテンアメリカの競争力は弱まっており、とりわけ「単産品国」を中心にこの地域を脆弱にしている。これは産品ごとの、そして市場ごとの輸出の多様化を通じて是正されなければならない。低賃金を基盤とする競争力ないしわずか一度の利益しか生まない生態系の劣質化は、エセ競争力あるいは疑似競争力として拒絶されるべきである。

生産の転換と技術革新

26. 生産の転換は今日では開放経済の文脈における競争力の促進に集約されているが、各部門の諸側面への処遇や、中小企業の育成に関する限り弱点がある。これは国際化や輸出志向に関連する生産奨励政策策定の必要性をもたらす。

27. 対外投資は国家努力を補足するものであり、これと関連した技術面を過小評価してはならない。それは、固有の刷新能力や国際競争力をダイナミックに上昇させる基盤として、産業的・技術的ノウハウの能力を強化する。他方、国家貯蓄は生産の転換過程で必須とされる投資の発生にとって決定的に重要である。

28. ラテンアメリカの製造部門は過去数年間さまざまな変遷を経験してきた。輸出の分野での実績は好調だが、生産性と投資の成長は、国内需要の回復と対外競争力が弱いことから遅々としている。従って、新しい製品を加え新しい市場を開拓することで引き続き輸出を促進することが必要不可欠である。同地域の産業にとって未だに主な需要要因である国内市場における競争力を増強させることも同様に重要である。

29. 農業部門(畜牛および穀物生産)はかなり落ち込みが激しく、こうした状況が穀物と耕作地の調整に関連する生産能率を向上させ、それによる収益を上げる技術の導入を求めている。

人的資源、貧困、不公平

30. 物理的インフラストラクチャーの創出は、開発の基盤として不可欠である。しかし、基礎教育も同様に開発を強化する人的資本の質を改善する上で不可欠である。適切な教育と人的資源に対する研修を施さない国はいずれも競争力もつかず不公平を是正することもできない。生産システムの変化とそれに呼応するあらゆる挑戦に照らすと、教育は近代化の過程において基本的な要素となっており、ラテンアメリカは教育システムを大々的に改善し、それに適応する能力を充実させなければならない。

31. ラテンアメリカはマクロ経済と関連の事項を優先し、社会政策を軽視してきた。これは所得と富との間の不均衡を強め、これまで達成してきたことに影響を及ぼす無秩序をもたらしかねない。社会的不均衡は無限に続くものであってはならない。

32. ラテンアメリカは再分配および社会結合手段として要求されるべき社会的権利を創出しなければならない。

33. 不公平と貧困層は減っていない。社会保障政策の効果はこれまでのところ限られている。社会支出は財政規律達成のための手段によって削減され、社会政策の適用は満足な更新のされかたをしていない。

34. 人口動態の問題はいまだ極めて深刻である。とりわけ南米では人口成長をかなり減少させた国がある。メキシコや他の中米諸国は目標を達成していない。前者は抑制プログラムによって良好な成果を達成しているが、一方で人口成長は伝統的に緩慢である。一般的にこの問題は、実際に進展があったとしても人口成長率は雇用の可能性や社会サービス補填にくらべると高いという問題は残る。

35. 公正性は貧困との闘いのみに限定されるものではない。その主要目標は「全てを受け入れる社会」に到達するために不公平を排除することにある。

将来を見据えて

36. 実際のところ、金融の利害、マクロ経済および短期的利益は環境問題に優先している。しかし真実は、われわれが現在居住し将来も住み続ける場である環境は、地球的にも地域的にもこの上なく重要である。同地域の経済分析のほとんどは環境や天然資源についてほぼ何も言及していない。これらの分析は地域開発の選択肢にとって重要であるにもかかわらず、人口集中地や天然資源(とりわけ再生可能な資源)の入手可能性の変動にかかわる環境の質にほとんど触れることがない。技術進歩に対するほどほどの参与、強化された世界貿易、国際市場における地域生産物の価格の低下は天然資源への圧力を強めている。人口増加と前述の事実に対する国内需要の増大は、開発戦略を実施するにあたって環境と天然資源を考慮に入れるべきだという結論に導く。

37. 南米の危機は北米諸国にも影響する。これは、なぜ長期的傾向を地球的見地から検証しなければならないかの理由である。この観点から始まり、地域不均衡を回避するために必要なことも共に明確にすべきである。

38. 現在のニーズを満たすだけでなく、それが将来の世代も彼らのニーズを満たす能力を損なわずに持続可能な開発を考えなければならない。この根拠に立脚して開発政策を見直していかなければならない。

39. 実質経済は細心の考慮を必要としている。マクロ経済の分析は、立案に関する限りにおいては十分ではない。下請け業者(・/FONT>maquila煤jと共に鉄鋼、鉱業、石油および自動車産業など、国家経済の部門別分析は不可欠である。同様に、中小規模産業は利用可能な労働力のほとんどを吸収している。これらの分析は開放経済の文脈において生産性政策の策定にとって必要不可欠である。例えば社会保障と保健システムの強化、再分配機能を有する貯蓄および年金、世界的な生産水準における相互関係の結果である国家と多国籍企業間の相互関係など、総意の意思決定がかかわるときには官民両部門間の密接な協力も同様に不可欠である。

40. 対外債務は、政策が変わりすでに進展がみられるために、もはや問題とは考えられていない。しかし、とりわけ相対的に小規模経済の場合、利払いは実質経済成長に当てる資源を排除する障害であることから、危機のいくつかの結果は未だ克服されずにいる。

41. 現在、短期的諸問題に特権的関心が寄せられており、長期的問題を預かっている。その結果、総意に基づく戦略計画、世論が聞きたい基本的疑問に答えることは必須条件となっている。




 

参加者:

インターアクション・カウンシルのメンバー

ミゲル・デラマドリ・ウルタード (元メキシコ大統領)

ホセ・サルネイ (元ブラジル大統領)

専門家:

ダヴィド・イバラ (メキシコ、CEPAL)

サロモン・カルマノヴィッツ (コロンビア、バンコ・デラ・レプブリカ・オ・バンコ・エミソール)

ノラ・ルスティグ (米州開発銀行

カルロス・モネタ (ヴェネズエラ、SELA)

オズヴァルド・ロザレス (チリ、CEPAL)

ヴィクトル・L・ウルキーディ (メキシコ大学)

加賀美 充洋 (アジア経済研究所)

ロムロ・カバイェロス (メキシコ、CEPAL)

セルヒオ・モタ (メキシコ、フォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ、文化経済財団

ジャーナリスト:

エリオ・ガスパリ (ブラジル、O・GLOBO)

「ラテンアメリカの均衡と政治、経済、社会状況の展望」


(要約)


専門家会議による提言


議長:ミゲル・デラマドリ

1998年2月27日

文化経済財団

メキシコ、メキシコシティ





1. ラテンアメリカにおける統治、民主主義および経済改革

2.成長と経済改革

3. 国際参入と競争力

4.生産の再構築および技術進歩

5. 雇用および報酬

6. 貧困および配分

7.国家と市場に関する議論

8. 統治性および経済改革:概観





1. ラテンアメリカにおける統治、民主主義および経済改革



  ラテンアメリカは統治の分野において民主主義に基づく多元的共存と深淵な経済改革の前進に特徴づけられた激しい変革の過程の直中にある。均衡には2つの側面がある。つまり、80年代と比べると明らかに前進しているものの、そこから得られる平均値は依然として満足しうるものではないということである。

  経済の分野での「失われた10年」が、政治の領域ではかなりの進展をみせたことは、疑うまでもない。これまで、この地域の多くの諸国で民主主義が同時に発生することなどありえなかった。さらに、それを実践するには制約があるものの、今ではより開かれた政権が優勢となっている。「有事政府」は消滅しつつあり、新しい政治指導者を定期的に選出することが一般的なルールとなりつつあり、その上、政治的変則性という極めつけの実例も制度化された手法の適用で解決策を探る方向にある。経済活動においては質と技術がより一層高度化され、それに見合った進展が、中央銀行、予算管理機関、金融監督機関など、経済の安定に決定的な影響力を有す公的諸機関の管理者にもうかがうことができる。

  新しい挑戦と取り組むために、とりわけ公務における清廉性の強化、政治と行政の機能の地方分権化、政党の近代化、そして現在いくつかの国の事例に見られる汚職の一掃など、政治制度の再適応において未済の任務が残されている。

  政党は、ある意味で、近代化に抵抗しており、国民の大きな懸念となっている問題や疑問に快く応じない傾向がある。

  投票は、政治活動や諸制度への反対意見を広範に示すと同時に、とりわけ若い世代を中心として公務に関する一般市民の動機の欠如が高まり続けていることを示している。

  厳しいマクロ経済の運営は、現在統治と国際関係の中心的要素となっている。その結果、国際的場面で経済的立場が相反する国同士が友好関係を樹立することを課され、従ってそれが人民主義を事実上排除している。

  近代化に関する限り、特に行政機関の主だった水準の技術的進展と比較した場合、ラテンアメリカの議会は欠陥をみせている。このような不均衡は、明らかに予算に関する討議の弱さや台頭する領域での公的政策で有効な財政法案を提出する議会の能力に限界があることでみることができる。

  司法と警察システムに対する評価も高くない。特に良く知られている深刻な例として、民主主義による統治、諸制度の結束、さらには経済改革の存続を脅かす麻薬売買と警察との馴れ合いがしばしば挙げられる。

  ラテンアメリカにおける経済と政治改革は、事実上開放され競争力のある市場経済の制度化が進展することを希求し、ますます強まる民主主義実践の枠組みの中で社会的改善を進めることを試みている。しかしながら、改革のコストは高くつき、不公平に配分されている。

  貧困、失業、不十分な雇用、所得の格差、教育の達成度における社会的落差がこの地域の構造的特徴であることは事実であり、高水準の社会的統合には遙かに及ばない。グローバリゼーションと経済の開放という現実は、不確実性を増すさまざまな影響と共に背景として、こうして排除に作用している。

  ラテンアメリカでは都市暴動が人的にもまた経済的にも犠牲を強いつつ増大している。このような暴動は一般市民の不安感や経済活動に対する不信をつのらせている。社会的期待が行き詰まると、著しい都市集中化と都市における貧困の中核の結合が犯罪行為と都市型暴動の拡大を促進させる舞台となる。

  麻薬取引―汚染―暴動の構造がある程度異なる要因と相俟っているものの、確立された諸制度を不安定にしている。これらの場合、基本的共存の規範は打ち砕かれ、統治能力は蝕まれ、そして諸制度は信用を失墜する。疑うまでもなく、司法や政治制度の多大なる再改革が残されているのである。



2.成長と経済改革



  80年代に吹き荒れた危機の例外的特徴を、同時発生した執拗な悪化の中にみることができる。生産の縮小あるいは成長リズムの劇的低下に伴い、雇用状況は悪化し実質賃金も減少した。インフレの過程は広がり、さらに深刻になった。そして対外部門の問題はますます深刻さを増した。マクロ経済悪化の相手として高金利と為替の切り下げを伴う不況による影響で、国内金融システムの深刻な危機が出現した。国情によっていくつかの例外もあるが、調整の過程は多くのケースで1990年まで続き、1人当たり国民生産は連続的に落ち込んだ。

  不均衡の重要性と新しい国際秩序の特性にもかかわらず、単なる政治的調整として始まったものがまたたくまに構造改革に変わった。それらには同一性は全くないものの、すべての改革の過程は、財政規律、貿易および金融の自由化、市場メカニズムの作用、民間投資に対する強まる信頼、海外投資家に対するより緩やかな条件を含む新しいインセンティブと規制を基盤とするマクロ経済の安定と国際競争力を目標とした。全体として、このような過程には対外融資の更新を奨励した地域開発手段の基本的変遷が含まれる。

  海外の金融資源への新たなアクセスは、長期債券の発行を増やすことで公共負債を確実に再編成させ、それはコスト的にも高くつく旧債務の借り換えと担保資金の自由化を許した。このメカニズムは利払いを減少し、財政負担を軽減する。現在メキシコ、アルゼンチン、ブラジルがこのような過程にある。これは、これら経済にさらに深い根をはり、徐々に他の諸国にも拡大していくだろう。

  全体的な平均値は社会状況の脆弱性と低成長を示しており、それは社会的達成度がいまだに不十分であることに呼応している。第一に、いくつかの例外を除いて、生産成長率は並(1990年から1996年までが年間3パーセント)で、歴史的な達成(1945年から1980年までの年間5.5パーセント)を果たした時期の成長率や社会・経済面でやり残したものを考慮してラテンアメリカ経済委員会(CEPAL)が必要とみなす水準である年間6パーセントよりも低い。

  第二に、多くのラテンアメリカ経済はいまだ脆弱な状況の中で発展を余儀なくされている。多くの場合、マクロ経済の安定は、資本の動きに沿って短期的な拡大と調整のサイクルに反映される短期的資本によってしばしば経常赤字に依存している。従って、経済成長率と相対的価格における不安定は、経済活動の水準に反応する緩慢な雇用率の中で労働市場を強化し改善する上で妨害となっている。さらに、わずかな所得層は、経済・就労サイクルに適応するための資源や情報が少ないことから、不利な立場に追いやられる傾向がある。第三に、80年代に突如発生したとりわけ投資に関連する貯蓄係数の急落は、90年代に入っても回復が危機前の80年代初期における大半の諸国の水準をいまだ取り戻せていないことを考えると、極めて遅々としていることがわかる。

  80年代の金融危機の厳しさは各国それぞれの状況によって説明しうるが、ラテンアメリカ全体を通して、大規模な財政赤字、税政策に関連した規制、時代遅れの関税、公的企業の財源不足、政府に課された新しい債務、海外への資金の純流出、財政赤字補填の困難、公共機能の根幹的な低下など、ラテンアメリカ全体を通して共通するいくつかの要素がある。

  対外融資の回復、成長の促進および価格の安定は、1995年のメキシコ危機にもかかわらず、90年代のラテンアメリカ経済の基軸となった。この基軸は金融業績の改善を説明しうる決定的な変数となった。国際市場で任意の金融を獲得できるという可能性が国内の債務マージンを拡大し、同時にコストも下げた。外国資本の流入と外貨準備の増大にリンクした通貨レートの上昇は、財政への対外金利の負担を軽減させた。税収入は即刻活動水準の強化に呼応した。国内における金利の低下は、(海外の金利およびこの地域の多くの諸国に重くのしかかった信用割り当ての削除とともに)生産への新たなドライブが財政義務を履行する上で力となった。また、インフレの低下は実質所得を増大させた。

  このような条件は財政状況の変化と共に訪れた。そのほかの決定的要因はさまざまな公的部門における構造改革政策に弾みをつけたことである。これに関して、課題は広範で際だっているという良く知られた事実がある。消費税、より広範な徴税、関税の引き下げ、納税者の財政義務の履行と管理に関する法制や行政構造の改善などを強調した新しい税政策が採用された。企業や公共サービスが民営化された。地方分権化はさらに推進された。行政当局は再編成された。国家全体の保健および予防サービスに対する規制が緩和された例もいくつかある。公的規制手段は、市場により広範な場をもたらし、さまざまな社会支出計画の効率性と公正さを高めることを目的とするプログラムや政策を開発することで、異なる特質を獲得した。

  マクロ経済の安定と現実的な為替レートを維持するためにも、海外資源を効率的に取り入れ割り当てる各国の能力に見合った資本勘定の開設が必要不可欠である。例えば、効率的な貿易勘定の自由化は、実質的な平価切り下げを必要とするので、生産と労働の配置転換のコスト削減をはかる上で、成功するだろう。金融市場は実物市場より早く調整可能であることから、資本勘定の早すぎる開設は商業の自由化と金融の自由化との間で相反する警告を発し、突然の切り上げに繋がるかもしれない。

  しかしながら、資源の純移転における兆しの変化は、現在のラテンアメリカ経済の状況を語るに十分ではない。それに続かなければならないのは、徹底した経済改革であり、経済政策の質の大改善である。



3. 国際参入と競争力



  1970年から1990年にかけて、ラテンアメリカとカリブ海地域の輸出量は年率6パーセントを超える拡大を維持してきた。このような拡大は70年代のGNPの成長率を上回り、まして80年代の危機の時期より当然高い。しかし、購買力についていえば、輸出の交易条件の下落によって蝕まれた。

  80年代中盤から、世界貿易とラテンアメリカ諸国の輸出はリズムの速度を増した。特に90年代になって、いくつかの国は輸出量の成長率を大幅に上昇させた。

  この地域の主な輸出項目における価格展開は未だマイナスの傾向を示している。実質では、これら価格の長期的傾向はほとんどの場合弱まっている。16から18の主要生産物に関して、平均して10年以上相対的価格がカットされ、対外均衡を改善するために輸出業者に一層の努力を強いたため、この悪化は持続的かつ長期的特徴を持った。



4.生産の再構築および技術進歩


  
80年代は実質的な経済活動の不振や深刻な経済の不均衡を生み出した。90年代のラテンアメリカは厳しい世界的な不景気のあおりを受けている。

  90年代のラテンアメリカにおける生産活動の水準は、各国の成長リズムを徐々に取り入れながら、緩やかだが安定した拡大をみせてきている。さらに、国による相違はあるものの、投資の漸次的回復を記録し、経済ユニットの生産的合理化を成し遂げた。他方、生産性はとりわけ大幅な上昇を示したが、特に例外ではないものの工業生産の分野で顕著だった。生産および消費構造の国際化の度合いも劇的に高まった。

  対外債務危機後を皮切りとする調整の過程、マクロ経済の安定化および構造改革は力強い選択のメカニズムとして作用し、翻って、価格変動のサインにおいて新しいシナリオを採用する方法や生産活動に対する規制の過程を探る経済機関に圧力をかけた。



5. 雇用および報酬



  ラテンアメリカとカリブ海地域における新たな成長基盤は、雇用の創出と報酬の平均水準に限定的な影響しか及ぼさなかった。これは、第一に、これまでの歴史的パターンを参照しても、経済的活動人口(EAP)全てを吸収するために必要とされるものより少ない雇用を創出した控えめな成長の結果である。第二に、生産制度の再構築はさらなる資本集約的活動を奨励し、従ってGNPに対する雇用の適応性は下降する傾向にあったことに起因している。その結果、比較的生産性の高い「近代」企業に雇用されていた労働者のさまざまな類の生産性の低い「非公式」活動への転換が発生した。

  90年代に創出された新しい仕事のほとんどは、生産性と報酬水準の低い非公式部門においてである。1990年から1995年の間に創出された100の仕事のうち84は、この部門に関連したものであった。これは、ラテンアメリカ諸国内で有給で雇用されている人々の56パーセントがこの非公式部門に属することを意味し、国による相違はあるが、賃金も1980年代の水準に達しないなど、中間労働者の生産性水準の現段階での平均的停滞と職場環境による所得格差の拡大を物語っている。



6. 貧困および配分



  最近の貧困の全体的様相は、とりわけ持続可能な経済の回復状況にかかわっており、ある程度の改善をみせている。1990年から1994年の間に12カ国のうち9カ国で貧困の水準が改善(1カ国のみ悪化)された。こうした漸次的改善傾向は、成長がいくつかの国(特にメキシコとアルゼンチン)で減速した1995年に ―おそらく一時的なものだが― 停止している。しかし、他方では、このような改善傾向は、安定化計画によるブラジルにおける貧困層の突然の減少によってさらに強まった。しかしながら、1994年以降、結果は異なる様相を示してきており、3カ国の貧困が緩和され、4カ国で増大し、残り5カ国は小さな変動はあるもののほぼ同水準を維持している。1980年と比較すると、今日ではブラジル、チリ、パナマ、ウルグワイのわずか4カ国のみで貧困水準が改善されているにすぎない。

  ほとんどのラテンアメリカ諸国における社会部門のための公的支出の水準は、90年代初頭の数年間で上昇した。1993年までにみられた状況とは対照的に上昇をみせた11例のうち7例で80年代前半に達成された指数を上回っている。



7.国家と市場に関する議論



  商業開放主義と経済改革の枠組みにおいて輸入代替の産業化プロセスを決定する規範設定の後、ラテン・アメリカは自由化政策と民営化を経験してきた。これは、従来の過剰と非効率性を是正し、市場と政府の実績の必要とされる相互補完性を設定した今日のアプローチへと国家の役割を定義づけた。これには、公共サービスの民営化において察知された規制の困難、環境保護の不十分さ、そして全般的に開放経済における公平と実力の推進を考慮に入れてなされた。

  この見解の目標は国家と市場の質的改善であり、各ケースの相対的利点に準じて戦略的相互補完性を模索することである。市場の利点を最大限利用するために、集中・差別・非対称的情報の欠如を是正し、資本市場へのアクセスを拡大し、国家の規制能力を強化し、消費者および小規模株主の権利を保護することなどが必要とされる。公的行動の論理が競争の促進によって譲歩させられるのならば、そして、もし公的行動が市場を代替したり無視せずに市場に傾くならば、国家と市場の間には相互補完性がみられ、双方が相互作用によって裨益するだろう。



8. 統治性および経済改革:概観



  グローバル化された経済の進展は、社会的団結を奨励するあらゆ類の競争力を支持する統一された経済・社会政策の形成を求めている。これは、成長と公平との間の実際的な対立を無視するものではない。逆に、これはそうした対立を最小化し、相互補完性のある多くの要素、とりわけ、マクロ経済の規律、人的資源への投資、新規雇用の創出、広範な企業家的環境における技術進展の急速な普及などを利用することを意味している。

  成長と公平は経済政策と社会政策双方の産物である。これに関して、社会政策は配分の問題に集中すべきであり、経済政策の唯一の目的は成長を促すことであるという考えは、捨て去らなければならない。配分の問題が関わったとき、いずれも中立ではありえず、双方とも成長能力に影響を及ぼすのである。

  成長の安定的特質を強調するということは、さまざまな種類のマクロ経済の均衡が安定していなければならないということを意味する。言い換えれば、経済を生産性の拡大から引き離すようなゆがみを回避しなければならず、資源の効率的な割り当てに及ぼすマクロ経済の影響に注意しなければならない、ということである。





 


 

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