1987 Rome Statement in Japanese
平和・開発・人口・環境の相互関連問題に関する 宗教指導者と政治指導者の会議 ラ・チビルタ・カトリカ(イタリア、ローマ) 1987年3月9日―10日 |
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「ローマ宣言」序文 福田赳夫インターアクション・カウンシル名誉議長 長年、私の最大の関心事項は世界が直面する困難な状況でした。今日でもそうです。世界には政治、軍事、環境など、どの角度から見ても問題が山積しています。さらに人口、開発は環境などを含め、私たちを取り巻いている自然の環境も、これまでも例を見ないほどの危機的状況にあります。これら危険な状態の解決に失敗しますと、人類には全く何の未来も残されないでしょう。私たちがもし後生に不安のない世界を望むのなら、これらの問題解決のために私たちは不屈の、断固とした努力を払わなければなりません。 私は先ず、このような認識のもとに1983年、各国、各政府からの25人以上の元指導者達と共に、これらの問題をいかに解決し、確信をもって行動するかを話し合うためにもインターアクション・カウンシル(OBサミット)を招請しました。現職の指導者達も、これらの問題を認識しておりますが、直面する日常業務に追われ、それぞれの国家利益によって束縛されています。豊富な経験に基づく英知あるかっての指導者達が、その英知を人類のために提供できるはずだと考えたのです。インターアクション・カウンシルはこれまでに5回の総会と専門研究グループによる数多くの会議を行い、世界に有意義な影響を与えてきております。 しかし、私の考えはさらに広がりました。私は長い間、世界平和と人類の幸福には、宗教家も政治家も同等にかかわっていると感じておりました。政治と宗教界の指導者たちが一堂に会し、双方が関心を持つ諸問題を語り合うのは重要なことではないだろうかと。宗教界も同感して下さり、私は一定の共通認識に達せられるという感触を得ました。結局のところ、人類存在の重要さは普遍的問題だからです。 そこで、インターアクション・カウンシルのメンバー数人と五大宗教の指導者が、1987年の春ローマで会談しました。そこで、世界の現状からみて、今私たちが直面するこの挑戦を受けて立ち何らかの解決方途を探らなければ、人類に未来は無く、また、政治と宗教の指導者による共同の努力で問題のいくつかを解決する余地がある、という合意が得られました。これまで通常は分裂し、あるいは対立的見解さえ持つとみられた各グループの代表が、世界の直面する基本的な困難に関して、広範な合意に達したことを確認出来たことは、私にとってこの上もない喜びでした。 ローマで得た合意は私たちの努力をさらに継続するよう勇気づけるものです。会議は人類史上前例がない成果をあげ、非常に価値のあるものでした。心と心の話し合いを求める継続的な努力は、連帯活動をもたらすことを私は信じております。私は自分のこの信念をこの目で確認できたことを大変嬉しく思うとともに、心からの感謝をささげる次第です。 「ローマ宣言」序文 ヘルムート・シュミット インターアクション・カウンシル議長 1970年代半ばアンワール・エル・サダトとの会見で強烈な印象を受けて以来、またとくにその後彼について思い起こすにつれ、世界の文化的領域における宗教的、哲学的、論理的な接触と対応についての私の好奇心は以前にも増して大きなものになりました。相互理解なくして平和に奉仕することは困難なのです。 しかし、パレスチナであろうと、また世界のどこであろうと、「永久の平和」(エマヌエル・カントが提唱したような)という考えが実現すると想像するのは困難です。むろん多くの人はこの目標の道徳的価値を認めてはいます。それにもかかわらず、歴史を省みれば、国際連盟や国際連合、さらには大国間の一層強力なカルテルがあっても、過去同様、将来も武力で解決されるような紛争が起きる可能性は高いということが推論できましょう。 しかし、次のような考えも正しいでしょう。つまり紛争が国際的な武力の使用に達する前に、紛争を緩和、妥協に間に合わせる時期や機会が早ければ早いほど戦争を回避する希望は増大するということです。そして、逆もまた正しいのです。つまり宗教的、民族的、人種的、イデオロギー的急進主義や原理主義に頼れば頼るほど、相互理解は困難になり、武力使用と戦争の可能性は多くなるということです。 宗教と政治指導者がローマで一堂に会したのは、まさにお互いに意見を聞こうという願望のためでした。私たちはイスラム教、ユダヤ教、キリスト教、ヒンズー教、仏教あるいは宗教の自由思想家としてだけで集会したのではなく、民主主義者、共産主義者、保守派、進歩派としても出席しました。私たちは、全く異なる独裁政権あるいは全く異なる民主政権から、また地球上の全五大陸からやってきた、黒、茶、黄色の有色人種や白人でした。このような多くの相違点を乗り越えてお互いを理解したのみでなく、非常に重大な問題についての合意さえみたのです。 平和への願いについて合意するのは、宗教、政治指導者にとってさえ、難しいことなのです。同様に、これまでのところ減少させることのできなかった世界の人口爆発が、数世代後の数十億の人々にとっては非常な経済困難を意味します。さらに、その莫大なエネルギー消費は必ずここ数十年以内に大気圏の化学的構成を変え、その結果、さらに多くの人々に取り返しのつかない事態をもたらしてしまう"温室効果"を生むことを認識するのは比較的たやすいように見えます。しかし、私たちの日常生活の中で世界の人口増加を押し止め、数十億組もの夫婦を家族計画に向かわせるのは極めて困難です。 世界中から集まった五大宗教の聖職者達が、政治家とともに家族計画の重要性を認めたことは素晴らしい前進です。ほかの多くの指導者たちにもこの重大さに気づいてもらわなければなりません。 犠牲は一方的なものではありません。与えることは得ることです。二十世紀末期における人類に対する脅威は団結によってのみ回避されうるのです。
序論 近代史上初めて、インターアクション・カウンシルの招請により世界全大陸の政治指導者と五大宗教の指導者がローマで会談した。二日間にわたり出席者は世界平和、国際経済および相互に関連する開発、人口、環境問題について話し合った。 指導者達は人類が歴史上最大の危機に直面しており、しかもその問題解決のための適切な手段は明示されておらず、工夫もされていないとの合意をみた。これらの危機によって示されたチャレンジに対する有効で的確な方法がないかぎり、恒久的な未来はないであろう。 これらの問題と取り組むにあたって、指導者達はさらに、道徳的価値、平和と人類の幸福に対する共通の忠誠を背景に、宗教と政治の指導者達が協力しうる多くの分野があると合意した。 この最初の意見交換の結果、現在の危機に対する認識、評価についても、また、広範に共有する論理的基盤に基づき行動する必要性の認識についても、めざましい一致をみた。 ローマで会談した指導者たちは、このような機会はインターアクション・カウンシルやその他の機関が、国際的、地域的レベルで政治、学術、科学のリーダーを含めて、継続すべきであり、マスコミの支持をえて政策決定過程に影響を与えるべきだと合意した。 平和 第二次世界大戦後の今日、世界は一日として戦争、紛争、貧困、広範囲に及ぶ人間性の堕落と環境の悪化などから逃れられず、平和の真の意味を見失っている。参加者全員はその共有する論理的原則に照らして、真の平和は対話と受容力のある理解が、全ての社会的領域と国際的接触の分野にたえず浸透していく過程を通してのみ達成されるとの結論にいたった。 その結果、出席者全員が軍縮への努力を歓迎した。米国とソ連は戦略兵器の水準引き下げ協定を遵守し、さらにそれ以上に軍縮交渉を継続すべきである中国やアルゼンチンのような国における軍事予算削減政策などの政治は前進への見本を示すものである。 現在軍備競争に向けられている科学的、技術的資源と能力は、人類の生存と幸福を脅かしている全世界的な問題を解決するために使われるべきである。すなわち、エネルギー、新しい輸送システム、切迫しつつある気象変化の作用を緩和する技術の開発、オゾン層減少の調査推進、生物の継続的減少の防止、生物圏への脅威に対抗する手段などである。 世界経済 道徳的、政治的、経済的理由から、人類は地球上のいたるどころで多数の人を苦しめている現在のおそろしい貧困を逆転させ、より公正な経済構造を目指す努力をしなければならない。この転換は、工業国の側では啓発された自己利益、開発途上国の側では相互扶助的な政策にそれぞれ基づく一連の決断と対話を通してのみもたらされる。 不穏な結果をもたらす債務危機は緊急に解決されるべきである。債務利払いがその国の経済を窒息させるようなことがあってはならず、また、いかなる政府も国民に対し人間の品位を奪うような窮乏を要求することは道徳的にできない。全ての関係者は、実のある貢献を実行し、困難を分かち合うという道徳的基本を遵守すべきである。 緊急援助計画は、今日みじめな貧困に耐えている多数の人々や共同体の生存を守るには欠かせない。生存するためには全地球的規模での連帯責任感を育むことが何にもまして必要である。
今後の家族にとっての道徳的価値と、男女に共通の責任を認めることが、この諸問題を扱うためには不可欠であることが強調された。開発途上国の多くで見られある急激な人口増加は開発を妨げている。それが未開発、人口増加、人間生活の支持システムの崩壊という悪循環に油を注いでいる。有効な公共政策には、人口、環境、経済動向とそれらの相互作用に特に注意を払った組織的な見通しが求められる。 家族計画政策と手段に対する各宗派のアプローチの違いを認識しながらも、指導者たちは、現在の動向からみて効果的な家族計画の追求を避けられない、との合意に達した。いくつかの国と宗派で持たれた積極的な経験は共有されるべきであり、家族計画のための科学的研究が急がれなくてならない。 |
会議出席者 インターアクション・カウンシルのメンバー 福田赳夫 (名誉議長、元首相) ヘルムート・シュミット (議長、前西ドイツ首相) イェノ・フォック (元ハンガリー首相) マルコム・フレーザー (元オーストラリア首相) オルセグン・オバサンジョ (元ナイジェリア大統領) ミサイル・パストラナ・ボレロ (元コロンビア大統領) マリア・デ・ローデス・ピンタスィルゴ (元ポルトガル首相) ブラッドフォード・モース (元UNDP事務局長) 宗教指導者 A.・T・ アリヤラトネ (スリランカ、仏教) K・H・ ハッサン・バスリ (インドネシア、イスラム教) ジョン・B・コッブ (米国、キリスト教メソジスト派) フランツ・ケーニッヒ(オーストリア、カソリック枢機卿) リ・ショウパオ (中国、プロテスタント) カラン・シン (インド、ヒンズー教) エリオ・トアフ (イタリア、ユダヤ教) 環境専門家 レスター・ブラウン (ワールドウォッチ・インスティテュート) |
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