. Communique of the 11th Session in Shanghai, China in Japanese |
インターアクション・カウンシル 第11回総会の最終声明 1993年5月13−16日 中国、上海 |
冷戦の終焉は、政治的自由という形の配当はもたらしたが、新しい世界秩序も平和の配当ももたらさなかった。 I 中国 1. 過去10年間、中国は経済および社会を劇的に発展させる政策をとってきた。過去の政治的、社会的変動の遺産は、社会主義の教義と市場の原則を両立させつつダイナミックに発展する経済に取って替わられた。農業部門の成功と工業生産の活性化により、生活水準は急速に向上し、個人も豊かになりつつある。これは、今世紀の終わりには中国が主要経済国の一つになることを約束している。 2.しかし、中国政府自体は潜在的な混乱要因を認識している。我々は、地域主義とその結果生じる格差、特に農業部門に与える影響、地球規模の影響をもたらす生態系の退化と無規制な産業化による環境の悪化、重工業重視の中央計画経済の結果および社会平和と安定を脅かすインフレをもたらす経済の加熱を懸念している。 3. 中国が国際舞台において政治、戦略、経済大国となることは、中国に特別な責任を負わさせることを意味し、これはソ連邦崩壊後さらに顕著となった。中国は北の隣国との数十年に及ぶ紛争とその心配から解放され、対外政治における戦術を展開する自由を勝ち取った。今や中国は、太平洋地域および世界全体に対し重要な役割を果たさんとしている。国益のためにも、中国の政策は平和と安定を強化し、核兵器およびミサイルの拡散を抑制しなければならない。他方、国際社会は中国が国際金融・商業・経済システムに完全に参加できるよう協力すべきである。 II ソ連邦崩壊後の帰結への対応 4. ソビエト連邦の崩壊は戦後最も大きな出来事であった。抑止力に基づく安定した国際システムは、他の形態の深刻かつ潜在的紛争の機会をもたらし、きわめて不安定な集団に取って替わられた。これは旧ソ連邦の領土の制度的崩壊によって一層悪化した。この地域に再び安定がもたらされない限り、冷戦後の世界の安定は弱いものとなろう。 5. 冷戦の終焉は、軍縮のプロセスを促進し、武器貿易を抑制し、それにより現在の軍事支出の水準を引き下げるために、とくに世界の主要大国がイニシアチブをとる貴重な機会をもたらした。 6. 西側主要国は、選挙や国民投票に結びついた見せかけばかりで効率の悪い体制を追求せずに、むしろ経済発展の土台となるような、長期的協力のための枠組みを公式の合意で定義すべきである。国際金融機関は自らの本来の役割を再考慮すべきである。現在必要とされているのは、今後5年間に貿易と市場参入を促進し、国際貿易上の規定を定着させ、核弾頭を解体し、原子炉に対する安全基準を引き上げ、深刻な環境問題に対処し、社会福祉計画を強化するために選択されしかも管理の行き届いた援助計画である。新生共和国の場合には、国際社会の予測可能な行動をとる一員としての信頼を確立し、孤立主義や排他主義を打ち破り、国内の少数民族にも平等の権利を与えなければならない。 7. 西側が新しい独立国家を無視し、ロシアにばかり焦点をあてることによって、危険な歪みが生じている。この状況は、西側が各国の状況や必要事項にではなく指導者個人の運命に過剰な関心を寄せていることによって、さらに悪化している。旧ソ連邦を継承する国々への援助によって、他の国への援助が削減されてはならない。 8. ロシアとその他の新生共和国を差別する国際援助は、今にも爆発しそうな紛争に火をつけかねない。ロシアとその他の新生共和国との関係は、今日の最も重要な政治問題となりうる。ロシアの再建は他の新生共和国、国内に核兵器のあるウクライナのような台頭しつつある大国、事故を引き起こしやすい原子力発電所を持つ国々、あるいは環境的に大きな問題を抱える国々(瀕死の状態にあるアラル海など)への援助計画によって補足されねばならない。すべての新生共和国は独立国としての威厳をもって、国際的な場に参加することを許されるべきである。旧ソ連諸国間で、経済共同体のような新たな提携関係と協力的な体制が築かれるべきであり、これが上記のプロセスを容易にしよう。 9.我々は、ソ連崩壊によって引き起こされた、旧ユーゴの一部における暴力、残忍、人間的悲劇の発生を阻止できなかったことについて国際社会を非難する。我々はまた、欧州共同体、全欧安保協力会議および国連に対して、ヨーロッパがこの紛争から解放されるために断固とした措置をとるよう強く要請する。人間の権利と尊厳を全く無視した通常兵器戦争は、いかなる方法をもってでも直ちに停止されねばならない。さもなければ、国内紛争の熱い火種は無差別に広がり、ヨーロッパの安定と繁栄を脅かす危険がある。我々は今日提出されている多様な提案に基づいたこの危機の政治的解決を支持する。我々は、安全保障、国境の保障、少数民族の保護、経済協力に関して強制力のある条文に支えられた一連の条約を速やかに締結するために、この地域のすべての国々を招集する会議を直ちに開催するよう、米国、ロシア、ECに対して要請する。 10. 朝鮮半島もまたソ連崩壊による影響を感じ取っている。北朝鮮が国際原子力機構(IAEA)による、核拡散防止条約(NPT)に基づく検査に応じなかったという事実と、その後のNPT条約からの離脱は、国際的にさらに孤立させるリスクを北朝鮮に負わせた。我々は北朝鮮が自らの立場を再考し、NPT条約に再加盟するよう要請する。我々はヘルムート・シュミット氏が議長を務めた「ドイツ統一の朝鮮半島への教訓」に関する専門家会議のレポートを全面的に支持し、これに対する南北朝鮮、中国、日本、ロシア、米国、アセアン諸国、および海外居住の朝鮮人社会の関心を喚起したい。 11. ソ連の崩壊は世界中に民主主義と人権が広がるという歓迎すべき状況に新しい弾みをつけることになった。この進展は持続されねばならない。同時に、文化が媒体となり、また多くの国では数世紀をかけて築き上げられた国家のアイデンティティーという概念が表面化し、結束の大きな力となっている。複数民族国家は、民族主義的な動き、経済の衰退、社会の崩壊といった圧力の下で分裂しつつある。 国家のアイデンティティーへの願望は疑いなく正当なものであり、政治的、社会的な安定にとってプラスの要素となりうる。しかし、こうした願望が、同じく正当な少数民族のアイデンティティーと共存できず、「民族的にクリーン」な国家への要求の権利として高まっていくと、破壊的で後退的な民族主義に変わる危険性もある。正しい意味での国家のアイデンティティーは、政治的な細分化と民族的な敵意ではなく、政治的には複数主義、社会的・宗教的には寛大さを要求している。さらに、様々なタイプの原理主義の高まりは、平和を脅かし、非寛容性、暴力、憎しみを増長させる危険がある。 12. 冷戦の終焉とソ連邦の崩壊によって、世界中の多くの地域が大国間のイデオロギー上の対立による影響から解放された。このような対立は、中南米、カリブ海、アフリカ、中近東、アジアの各地で暴力、ゲリラ戦、独裁政権といった形で現れていた。我々は民主主義、国内紛争の解決、経済成長と貧困の廃絶にエネルギーを結集させる機会が各国に与えられる展開を歓迎する。さらに、より公平な開発途上国の国際システムへの関わりは、途上国自身が現在の困窮を克服するために促進されるべきである。 13. 我々は、かつて東西対立によって最も強く影響を受けた国々、すなわちレバノン、中央アメリカ、アンゴラの復興に着手するよう、国際社会に呼びかける。アンゴラは世界各国から外交的に承認されなければならない。我々はまた米国政府、とくに米国議会に対して、キューバと対話を行い、より柔軟な態度をとるよう要請する。 14. 開発途上国は債務返済に苦しみ、貿易、資金の流入、適切な技術移転について好ましい条件を欠いている。1992年、我々は特にラテン・アメリカでの状況に焦点をあてたが、今年は地域問題としてアフリカに集中した。 III アフリカを国際システムの主流に戻す 15. 冷戦の終焉はまた、アフリカに注目する機会をもたらした。アフリカが極限に追い込まれている現状は道徳的に受け入れ難く、政治的には近視眼的であり、経済的に不利である。故に我々は、キャラハン卿により提出された「アフリカを国際システムの主流に戻す」というテーマの下で開催された専門家会議の報告書を無条件に支持し、その広範な普及を望む。 16. アフリカは絶望的ではない。1960年代から1970年代にかけての成功物語とは別に、最近ではベニン、ボツワナ、モーリシャスなどでの成功例がある。アフリカ人自らが、民主主義と持続可能な経済開発との関連性を強調している。しかし、民主主義はもろく、強化されねばならない。アフリカ内では、政府機構と法規の強化、健全な財政と税制の導入、高度な教育、研修、民間貯蓄が必要であり、これらが民間投資増大の呼び水となる。アフリカ人は、自助努力が成功の必須条件であることを認識している。特に、エネルギーの供給、水、交通面で大陸内の市場を開発し、軍事費を大幅に削減しなければならない。国際社会は債務救済に関する宣言を遵守しなければならない。世界銀行とIMFは借款を軽減できる特例措置を採択しなければならない。より大事なことは、北側が市場を解放し、ガットを締結し、公平な貿易制度を創出することである。 17. 女性に教育の機会を与え地位を向上させることにより、アフリカの高出産率の低下が可能となる。医学的研究を含む避妊具の使用方法とメカニズムを推進し、開発援助のなかで家族計画に優先度をおかなければならない。 18. 現在、世界人口の10%にすぎないアフリカ人は、世界のエイズ患者の60から70%を占めており、これは90年代末までに倍増するだろう。2000年までに蔓延するであろう社会不安を回避するためには、「コンドーム補助計画」を広く設置しなければならない。 19. ソマリア悲劇の再発を防ぐために、国連と地域機関双方が早急に紛争防止および解決に向けて努力しなければならない。今後は、国際社会が人道的救済のための介入に関する原則を推進することが望まれる。国連とその専門機関が大きな貢献を果たしたアンゴラにおける民主化を定着させ、発展させなければならない。 20. 北側はアフリカの問題と無関係ではいられない。先進工業国がアフリカ問題に関して議論すべき明白な根拠はある。このため、アフリカへの開発援助と資金の流れの総額、方向性、特定条件を東京で開催されるG−7サミットの議題にのせるべきである。 21.南アフリカは歴史的変化の入口にある。複数政党間の交渉を完了させ、統一国家政府を形成するために可能な限り早期に選挙を実施すべきである。これまで困窮状態にあり大多数を占める黒人は、これによって教育、住宅、雇用、賃金などが直ちに改善されると期待するであろう。大幅な経済成長がない限り、これらの改善は達成されえない。民間および譲与的資金源双方からの外部資金が必要である。 IV 世界貿易 22. 世界経済は最善ではあるものの低い成長率しか達成していない。明るい展望が持てる地域は、継続的な高い貯蓄率と成長の原動力として中国が台頭してきたことによって経済がダイナミックに躍動している東アジアである。先進諸国はますます多様な形態の保護主義に走っている。ECおよび北米自由貿易協定(NAFTA)と台頭しつつある東アジア経済地域という三極経済地域主義への傾向は、初めからもろい自由開放貿易の基礎を脅かしているが、これらの三地域外の国々を一層圧迫してはならない。国際協力と多国間機構の原則は守らなければならない。これらは経済成長と世界的繁栄をもたらす最善の方法である。 23. ガットのウルグアイ・ラウンドの締結によって多国間貿易システムを救済するために、最後の努力を払わなければならない。しかしガットが成功しても、地域的な貿易ブロックは残るだろう。国際体制と地域的構造を調和させなければならない。 V 環境と人口問題 24. 人口の増大、地球環境、資源、貧困および大量移民の問題は相互に関連し合っている。これらに対処する上で特に重要かつ最も困難であるのが、人口急増の問題である。各国政府は、新しい時代に世界が直面する最も厳しい政治上の任務は人口増大の抑制であることを認識しなければならず、この難問に対処する措置をとらなければならない。従って各国政府は、1994年にカイロで開催される国連人口会議においてこの挑戦に対処するための国内および国際的措置をとる意志と決意を示さなければならない。 25. 国際社会は期待と希望をもって昨年リオデジャネイロで開催された地球サミットを歓迎した。事実、この環境と開発に関する最初の地球サミット会議は、環境行動に対する世界的支持とNGOおよび民間部門による行動の強化をもたらした。しかし1年後の今日、各国政府は公約したにもかかわらず、行動を起こそうとはしていない。このような怠慢が、政府の行動力と指導力に対する国民の信頼を一層失わせることになる。我々は環境保護と資金供与に関する誓約を守り、直ちに行動を起こすよう、リオ協定の調印国すべてに対して要請する。
上海会議出席者 1. インターアクション・カウンシルメンバーヘルムート・シュミット (西ドイツ前首相) 議長福田 赳夫 (日本元首相) 名誉議長マリア・デローデス・ピンタシルゴ (ポルトガル元首相)副議長ラウル・アルフォンシン (アルゼンチン元大統領)キルティ・ニディ・ビスタ (ネパール元首相)キャラハン卿 (英国元首相)ミゲル・デラマドリ・ウルタド (メキシコ元大統領)ロポ・フォルチュナト・ナシメント (アンゴラ元大統領)イエノ・フォック (ハンガリー元首相)マルコム・フレーザー (オーストラリア元首相)ヴァレリー・ジスカール・デスタン (フランス元大統領)セリム・ホス (レバノン元首相)ケネス・カウンダ (ザンビア前大統領)リー・クアンユー (シンガポール元首相)オルセグン・オバサンジョ (ナイジェリア元首相)ミサエル・パストラナ・ボレロ (コロンビア元大統領)ミチャ・リビチッチ (ユーゴスラビア元首相)ホセ・サルネイ (ブラジル元大統領)ピエール・エリオット・トルドー (カナダ元首相)オラ・ウルステン (スウェーデン元首相)2. 特別ゲストカレン・N.ブルテンス (ゴルバチョフ財団顧問)賀 光輝 (中国国家経済体制委員会副主任)黄 華 (中国元外相)黄 菊 (中国上海市長)ヘンリー・A・キッシンジャー (米国元国務長官)ウイリアム・P・ロックリン (企業家:米国)エミール・ファンレネップ (元OECD事務局長:オランダ)ロバート・S・マクナマラ (米国元国防長官)宮崎 勇 (日本:大和総研理事長)中山 太郎 (日本衆議院議員)カシミエラ・プルンスキエヌ (リトアニア前首相)ロナルド・W・ロスケンズ (米国)申 金玄石高 (韓国元首相)杉浦 正健 (日本衆議院議員)ハンス・ヨーケン・フォーゲル (ドイツ元官房長官)
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