1997 Opportunities and Risks of Globalization in Japanese

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「グローバリゼーションの機会とリスク」



専門家会議報告書



議長: キャラハン卿(元英国首相)


於:米国ワシントン、1997年3月18〜20日






はじめに

1. 1970年代以降、世界経済を席巻してきた広範に及ぶ変化は集合的にグローバリゼーションと称されてきた。この語義は、国際経済活動が伝統的形態を高度化させ技術・貿易・生産・金融・投資・情報など新しい領域に拡大したことを表している。世界の新興地域も包含されるようになった。

2. 最初の主な進展は、過去20年間に情報技術の分野で劇的な進歩が遂げられたことである。電気通信やコンピューターがより精巧になるに従い、地球上の地理的遠隔地を巡る情報の交信が激化してきた。国際企業は日常の管理を厳重に維持しつつ、生産現場を世界的に分散させることが可能となった。

3. 第二の主要な進展は、かなりの部分がこうした情報革命の必然的結果でもある国際金融のフローの促進と強化である。われわれは細分化された国内金融市場から、きわめて流動的な資金の巨大な集積に特徴づけられた単一世界金融市場への累進的変遷を過去20年間に目撃してきた。

4. 第三の主要な進展は、これも情報革命の影響を強く受けているが、世界の新興地域が開かれた世界経済に組み込まれたことである。ロシアの社会主義国家から資本主義市場経済への現行の転換、中国経済の加速する市場化および多くの低開発諸国経済の自由化は、初めて自由市場システムを真にグローバルな規模にし、世界市場に膨大な新しい労働力を参入させた。

5. こうした進展は世界経済の統合に一助を果たしたと同時に、投機家の数や投資利益の規模を拡大させたため、国家間の競争をさらに強めた。こうした競争の激化は、市場の特質を質的に覆し、経済政策やビジネス戦略に急激な転換を強要した。

6. こうした進展は、止めることもできないし、長期的には世界中の生活水準を向上させる重要な機会をも提供している。こうした変遷を取り入れ、輸出志向の自由市場戦略を強めているアジアやその傾向をますます強めているラテン・アメリカ諸国の経済は、活力に満ちた対外投資や市場シェアの獲得に成功し、従って高水準の成長を達成した。中期的には、このような進展はこれら諸国の政治的影響力をも強めるだろう。

7. グローバリゼーションそれ自体が国家経済の健全性を改善することはない。こうした新たな状況は世界経済に以下のような重要な問題を生み出している。

資本移動の規模および規制の欠如が金融市場内に深刻な混乱を発生させ、それが世界経済全体に深刻な結果をもたらしてしまう危険

 

多くの国々がグローバリゼーションの機会を活用することに成功しているものの、他の国々、とりわけサハラ以南のアフリカはそれに失敗し、二分化した世界経済でますます取り残されてしまう危険

 

先進国経済が世界経済の中で激化している競争への適応に失敗し、グローバリゼーションへの反動とそれがもたらす機会を逸してしまう危険

 

8. このようなリスクは管理され、克服されなければならない。われわれは、グローバリゼーションが提起する挑戦に取り組む上で成すすべは何もない、などとその現実に説得されないことが不可欠である。

主権国家はその権力を衰弱させたかもしれないが、国境内ではかなりの活動範囲が維持されており、多国間協力によってかつての可能性を取り戻すことができる。グローバリゼーションは、われわれが利用しなければならない機会であり、無策の口実にしてはならない。全人類の未来の福祉が、非人格的な国際市場の勢力の単なる小間使いになってはならない。果敢かつ開明的なリーダーシップと緊密な協力が要請されているのである。

国際金融システムの安定化

9. 現在の国際金融フローの規模、投機的動きがもたらす影響、さらにこのような動きが世界に蔓延し影響を及ぼす速攻性が、金融市場に重大な混乱を招く危険をもたらしている。

しかしブレトンウッズ体制の崩壊およびより広範には覇権主義的安定化の役割を演じる米国の能力と意志の低下は、このような混乱を制御し、経済活動の他の部門の不安定化の危険を最小限に抑えるために必要とされる市場の規制を剥奪してしまった。

10. この文脈において、金融問題にかかわる協力における今日の失敗は、1930年代の通商問題における協力の失敗と、それが引き金となった大恐慌、失業の蔓延、さらには社会不秩序を想起させる。現在ではある国々の経済競争力と為替レートの間に断絶が生じていることが明らかになっている。投資の機会を捉えるために為替レートと税水準を操作することは、短期的には個々の国にとって有益であるかもしれない。しかし、そのような政策は、長期的には制度的なマイナス効果をもたらすことは避けられない。主要経済グループ間の協力は、グローバリゼーションが示唆する変化を成功裡に管理する上で不可欠な条件である。

11. 国際機関の既存の枠組みは、次世紀のニーズには不十分であり、改善強化されなければならない。これまで除外されてきた大国を速やかにかつ完全にそのような制度に組み込まなければならない。G7に関して、ロシアの役割の拡大は前向きな動きであり、この地位を中国にも与えるべきである。両国はまた、全ての国際機関の正式メンバーとして参与できるよう各々の義務を果たさなければならない。

初期の頃のG7は有益な調整・情報目的を満たしていた。そして、主として国内の支持者の利益のために官僚的見解を交換し合うという現在の慣行を放棄すれば、指導者達が会合することで、再びそのような役割を果たすことができよう。このような会議にははるかに小規模の官僚の参加と望むらくは少人数のメディアの関与のみに制限する必要がある。経済の成長に合わせて、インド、ブラジルおよびダイナミックなアジア諸国もいずれ参加させるべきである。

12. マーストリヒト条約に描かれている単一欧州通貨は、三つの主要準備通貨の調整役として、米国、日本、欧州連合間のより安定した均衡を確保する上で大いに役立ち、各国に抑制効果を課し、制度的問題と対処するための真の協力体制の基盤をもたらすだろう。

13. 慎重な国内政策は為替レートの安定に必要不可欠な条件だが、それだけでは不十分である。いかなる国も国内目的のために為替レートを操作できる範囲に関して緊急に調整することが必要である。

(ア) 困難が伴うことを認識した上で、われわれはターゲット・ゾーン活用の可能を探求するためにも繰り返しインターアクション・カウンシルの報告書「安定した国際金融システム」(於:ジュネーブ、1996年3月、第22節)を推奨する。

自国の通貨で対外借入れができる国々の能力は制限されるべきである。自国通貨借入は、破壊的な為替レート政策による不健全な財政政策がもたらす結末から逃れることを特定の国に許してきてしまった。それらの国々は過剰な債務を累積し、さらに通貨切り下げによって他の諸国に重荷を輸出してきたのである。

14. もう一つの懸念事項は、デリバティブ取引の増大である。この種の商品が国際金融市場において果たす役割の有用性に疑問はないが、それらを不適切に使用すると参加者は絶えがたい損失に身をさらすこともあり、市場に深刻な結果をもたらす。 緊急に注意を払うべき領域は、ノンバンクにどこまで取引を許すかということ、また大幅な利ざやに対する法的規制および店頭取引の規制である。

開発途上諸国経済の世界経済への統合

15. 多くの開発途上諸国は、グローバリゼーションがもたらす機会の恩恵を被るには不利な状況にある。不十分な教育の機会、広範に及ぶ保健問題、過剰な人口増大そして低い福祉水準に起因する諸問題は、開発に必要な海外投資の誘致を妨害している。その他、大規模な対外債務、多額な軍事支出、弱い政府構造、固有の汚職などの要因もまた健全な発展を妨げている。

その結果、急激に二分化されつつある世界経済において、特定の地域、最も顕著なのが翼Tハラ以南のアフリカである浴@は、ますます除外されてしまっている。このような開発途上諸国経済に関して今日われわれが直面する最も重要な挑戦は、彼らを世界経済に再統合することである。

16. 開発政策: 確固とした持続可能な成長は、最優先的課題であり、IMFおよび世界銀行の政策にとって不可欠な部分のはずである。例えば、財政問題、環境問題、女性の役割などは優先すべき事項であるが、これらの問題が切り離されては貧困を緩和することはできない。農村人口がこれらの国々の大半を占めており、彼らの生産物に対し妥当な価格を払うことを優先すれば、より速い成長が促されるだろう。

過去における援助供与国の絶え間ない優先度の変遷が、首尾一貫した開発の重大な障害となってきており、この目的の恒常的な変化は整合性のある長期的戦略の台頭を阻止してきた。成長を他の目的の次に置くという傾向は、成長なしにはその他の問題が未解決のままで残りうるという事実を無視してきた。成長の全体的目的を優先させることによってのみ、開発途上諸国経済は自らの力で諸問題を解決する資源を獲得できるのである。

17. 投資: 確固とした持続可能な成長を達成させるための核心は、外国投資を惹きつける能力である。効率的な政府、法改正、金融改革および資本市場の開発を促進する上で、国際機関はこのような投資を誘致しうる環境作りという重要な役割を担っている。

8. 政府開発援助(ODA: ODAは、このような成長の促進にとって不可欠な手段ではあるが、まったく問題がないわけではない。三つの改革が必要とされている。

(ア) ODAの対象の選択を厳しく行うべきである。焦点の定まらない現行のアプローチは、成果を生み出すには定見がなさすぎる。

(イ) 過剰な国防支出の削減を拒む国々にはODAを停止すべきである。さもなくば、援助は、国防部門に向けた資源の代替とほとんど変わらないものとなってしまう。

(ウ) 人口増大を抑制し国民の福祉水準を向上させるために十分に努力する国々に対してODAを集中させるべきである。この問題と取り組まない限り、援助の水準にかかわりなく、真の一人当たり所得の増大を達成することは極めて困難なものとなろう。

ODAに関して、以下に挙げる四つの重要な領域を強調すべきである。

(エ) 教育: 開発途上諸国経済が世界経済に完全に組み込まれるためには、諸外国と同等に競争する上で要請される技能を備えることが必要である。

(オ) 疾病の抑制: 例えばサハラ以南のアフリカでは、感染力の強い病気(特にエイズ)や寄生虫が原因の病(特にマラリア)が15歳から44歳までの死因の53パーセントを占めている。現行の保健援助に加えてバイオ医療による支援でかなりの改善の可能性がえられるだろう。

(カ) 女性の役割: 家族計画プログラムを成功させるためには、特に女性を対象とする十分な教育の普及と女性の権利としてビジネスに女性を参加させるよう、法改正を先行させることが重要である。

(キ) 社会保護: 家族計画プログラムに加えて社会保護に注目することは、人口増大の根本的原因のいくつかと取り組むことを可能にし、少人数の子供では老後の経済的保証がなくなるという恐怖感を人々から払拭させうる。

19. 貿易: 現行の交易条件は、多くの開発途上諸国経済、とりわけサハラ以南のアフリカを差別している。世界がますます特恵地域や特権地帯を組成するにつれて、これらの途上諸国は、自国が国際貿易システムから巧妙に除外されていることを認識することだろう。このような不平等は是正されなければならず、またより公正な交易条件が整備されなければならない。

特に、このような経済では最多数の人口が農業に従事していることから、先進諸国は国内の農業部門に現在与えている補助金を削減もしくは撤廃することによって開発に大きく貢献することができる。このような補助金は、開発途上諸国経済を阻害するだけでなく、自国社会の深刻なゆがみを表している。補助金の撤廃が農村部に不利な影響を及ぼすことは認めるが、地方再生プロジェクトのために資金の一部を移転することで、これは十分に相殺することができる。

グローバリゼーションの挑戦に適応しうる先進開発経済の再構築

20. 多くの先進国経済はグローバリゼーションが創出する新しい状況への適応に失敗している。多くの国々の経済部門は、硬直した労働慣習、不十分な教育や訓練のために不利な状況にあり、新規投資の魅力を減退させている。

その結果、これら諸国は疑う余地もなく新しい状況から総合的には益しているものの、こうした利益は不公平に配分される傾向にあり、それら社会においてますます多くの、主として非熟練労働者が取り残されつつある。

同時に、とりわけ西ヨーロッパを中心とするこれら諸国は、戦後期にそれぞれの社会の社会契約の基盤であった福祉サービスに資金を十分に配分することが、ますます困難になりつつあることを認識している。これによってグローバリゼーションに対する反動が予想され、グローバリゼーションが提供するさまざまな機会を無駄にしかねない。

21.こうした状況と取り組むための第一歩は、先進経済諸国の政治指導者が低賃金経済諸国との競争を国内問題のスケープゴートとして利用することを自制することである。低賃金経済諸国からの競争と先進経済諸国において増大する不公平や失業との間に存在するとされている関連を裏付ける十分なデータは現在のところ不足している。賃金水準と生産水準との一般的な符合は、このような関連が経済部門の大部分において具現化しないだろう。先進諸国の問題は、自国の状況が生み出したものとして第一にに捉えられるべきである。

22.従って、これら諸国が担う主な責務は、彼らの経済を低賃金競争から守ることではなく、むしろ賃金水準よりも生産水準を高めることである。生産水準が上昇すれば、先進経済諸国はその競争力を取り戻すことができよう。これは以下を示唆している。

(ア) 雇用慣習においてより弾力的なシステムを創造するために労働市場を再構築する
    努力

(イ) 特に新しい技術の使用において、基本的な教育および職業訓練能力を強化する試    
    み 

23. しかし同時に、変化に伴う最悪の結果を緩和し、先進諸国内において熟練・非熟練労働者の間で拡大する不公平を是正し、流れがますます加速している資本と活気を大きく欠いた労働者との間に生じる力の変化を制御する努力がなされるべきである。各国政府は、こうした変化に伴い失業した人々への救済対策と労働市場に再参入できるよう再訓練の機会を供与しなければならない。

24. このような措置は、社会の理解とコンセンサスの育成を基盤に、新たな産業デモクラシーを構築する努力という広範な文脈の上に成り立たたせなければならない。先進工業民主主義諸国を過去50年支えた社会契約を、グローバリゼーションの過程がもたらした状況の変化に適応させるために立案し直す必要がある。何らかの形の契約は、グローバリゼーションに対する極端な反動の防波堤として必要不可欠であるばかりでなく、これら諸国における総意に基づく政治を継続させる上でも欠かせない基盤である。例えば、労働者側の責任ある賃上げ要求に呼応するものは、グローバリゼーションの過程で悪影響を受けた人々を支援するという国家側の責任の認識である。

結 論

25. 結論として、グローバリゼーションが強制する経済問題をより広範な地政学上の文脈から切り離して考察することは、究極的に不可能であることに留意しなければならない。われわれがグローバリゼーションの機会から利益を得ようとするなら、相対的に安定した戦略的環境が不可欠な前提条件となる。

しかしこれは決して冷戦の終焉に関連づけられた勝利主義が示唆するほど安定したものではない。旧ソ連邦、バルカン諸国、中近東、インド亜大陸、東アジアなどの多様な地域では紛争の潜在的可能性が残され、これも抑止しなければグローバリゼーションの挑戦を受けて立つわれわれの機会に深刻な影響を及ぼすだろう。

従って、ここで提案されている経済管理の構造は、安全保障の管理の構造を強化することによって補われることが必要不可欠であると思われる。このような構造があるべき的確な姿を考えることは、国連および安全保障理事会の将来、NATOとロシアとの関係、中近東の和平、その他さまざまな地域的諸問題と同様に本専門家グループの範囲を超えている。しかしわれわれは、世界のこうした地域の安定を強化するためにも協議と協力が急務であることを明白にしたい。

はじめに

1. 1970年代以降、世界経済を席巻してきた広範に及ぶ変化は集合的にグローバリゼーションと称されてきた。この語義は、国際経済活動が伝統的形態を高度化させ技術・貿易・生産・金融・投資・情報など新しい領域に拡大したことを表している。世界の新興地域も包含されるようになった。

2. 最初の主な進展は、過去20年間に情報技術の分野で劇的な進歩が遂げられたことである。電気通信やコンピューターがより精巧になるに従い、地球上の地理的遠隔地を巡る情報の交信が激化してきた。国際企業は日常の管理を厳重に維持しつつ、生産現場を世界的に分散させることが可能となった。

3. 第二の主要な進展は、かなりの部分がこうした情報革命の必然的結果でもある国際金融のフローの促進と強化である。われわれは細分化された国内金融市場から、きわめて流動的な資金の巨大な集積に特徴づけられた単一世界金融市場への累進的変遷を過去20年間に目撃してきた。

4. 第三の主要な進展は、これも情報革命の影響を強く受けているが、世界の新興地域が開かれた世界経済に組み込まれたことである。ロシアの社会主義国家から資本主義市場経済への現行の転換、中国経済の加速する市場化および多くの低開発諸国経済の自由化は、初めて自由市場システムを真にグローバルな規模にし、世界市場に膨大な新しい労働力を参入させた。

5. こうした進展は世界経済の統合に一助を果たしたと同時に、投機家の数や投資利益の規模を拡大させたため、国家間の競争をさらに強めた。こうした競争の激化は、市場の特質を質的に覆し、経済政策やビジネス戦略に急激な転換を強要した。

6. こうした進展は、止めることもできないし、長期的には世界中の生活水準を向上させる重要な機会をも提供している。こうした変遷を取り入れ、輸出志向の自由市場戦略を強めているアジアやその傾向をますます強めているラテン・アメリカ諸国の経済は、活力に満ちた対外投資や市場シェアの獲得に成功し、従って高水準の成長を達成した。中期的には、このような進展はこれら諸国の政治的影響力をも強めるだろう。

7. グローバリゼーションそれ自体が国家経済の健全性を改善することはない。こうした新たな状況は世界経済に以下のような重要な問題を生み出している。

資本移動の規模および規制の欠如が金融市場内に深刻な混乱を発生させ、それが世界経済全体に深刻な結果をもたらしてしまう危険

 

多くの国々がグローバリゼーションの機会を活用することに成功しているものの、他の国々、とりわけサハラ以南のアフリカはそれに失敗し、二分化した世界経済でますます取り残されてしまう危険

 

先進国経済が世界経済の中で激化している競争への適応に失敗し、グローバリゼーションへの反動とそれがもたらす機会を逸してしまう危険

 

8. このようなリスクは管理され、克服されなければならない。われわれは、グローバリゼーションが提起する挑戦に取り組む上で成すすべは何もない、などとその現実に説得されないことが不可欠である。

主権国家はその権力を衰弱させたかもしれないが、国境内ではかなりの活動範囲が維持されており、多国間協力によってかつての可能性を取り戻すことができる。グローバリゼーションは、われわれが利用しなければならない機会であり、無策の口実にしてはならない。全人類の未来の福祉が、非人格的な国際市場の勢力の単なる小間使いになってはならない。果敢かつ開明的なリーダーシップと緊密な協力が要請されているのである。

国際金融システムの安定化

9. 現在の国際金融フローの規模、投機的動きがもたらす影響、さらにこのような動きが世界に蔓延し影響を及ぼす速攻性が、金融市場に重大な混乱を招く危険をもたらしている。

しかしブレトンウッズ体制の崩壊およびより広範には覇権主義的安定化の役割を演じる米国の能力と意志の低下は、このような混乱を制御し、経済活動の他の部門の不安定化の危険を最小限に抑えるために必要とされる市場の規制を剥奪してしまった。

10. この文脈において、金融問題にかかわる協力における今日の失敗は、1930年代の通商問題における協力の失敗と、それが引き金となった大恐慌、失業の蔓延、さらには社会不秩序を想起させる。現在ではある国々の経済競争力と為替レートの間に断絶が生じていることが明らかになっている。投資の機会を捉えるために為替レートと税水準を操作することは、短期的には個々の国にとって有益であるかもしれない。しかし、そのような政策は、長期的には制度的なマイナス効果をもたらすことは避けられない。主要経済グループ間の協力は、グローバリゼーションが示唆する変化を成功裡に管理する上で不可欠な条件である。

11. 国際機関の既存の枠組みは、次世紀のニーズには不十分であり、改善強化されなければならない。これまで除外されてきた大国を速やかにかつ完全にそのような制度に組み込まなければならない。G7に関して、ロシアの役割の拡大は前向きな動きであり、この地位を中国にも与えるべきである。両国はまた、全ての国際機関の正式メンバーとして参与できるよう各々の義務を果たさなければならない。

初期の頃のG7は有益な調整・情報目的を満たしていた。そして、主として国内の支持者の利益のために官僚的見解を交換し合うという現在の慣行を放棄すれば、指導者達が会合することで、再びそのような役割を果たすことができよう。このような会議にははるかに小規模の官僚の参加と望むらくは少人数のメディアの関与のみに制限する必要がある。経済の成長に合わせて、インド、ブラジルおよびダイナミックなアジア諸国もいずれ参加させるべきである。

12. マーストリヒト条約に描かれている単一欧州通貨は、三つの主要準備通貨の調整役として、米国、日本、欧州連合間のより安定した均衡を確保する上で大いに役立ち、各国に抑制効果を課し、制度的問題と対処するための真の協力体制の基盤をもたらすだろう。

13. 慎重な国内政策は為替レートの安定に必要不可欠な条件だが、それだけでは不十分である。いかなる国も国内目的のために為替レートを操作できる範囲に関して緊急に調整することが必要である。

(ア) 困難が伴うことを認識した上で、われわれはターゲット・ゾーン活用の可能を探求するためにも繰り返しインターアクション・カウンシルの報告書「安定した国際金融システム」(於:ジュネーブ、1996年3月、第22節)を推奨する。

自国の通貨で対外借入れができる国々の能力は制限されるべきである。自国通貨借入は、破壊的な為替レート政策による不健全な財政政策がもたらす結末から逃れることを特定の国に許してきてしまった。それらの国々は過剰な債務を累積し、さらに通貨切り下げによって他の諸国に重荷を輸出してきたのである。

14. もう一つの懸念事項は、デリバティブ取引の増大である。この種の商品が国際金融市場において果たす役割の有用性に疑問はないが、それらを不適切に使用すると参加者は絶えがたい損失に身をさらすこともあり、市場に深刻な結果をもたらす。 緊急に注意を払うべき領域は、ノンバンクにどこまで取引を許すかということ、また大幅な利ざやに対する法的規制および店頭取引の規制である。

開発途上諸国経済の世界経済への統合

15. 多くの開発途上諸国は、グローバリゼーションがもたらす機会の恩恵を被るには不利な状況にある。不十分な教育の機会、広範に及ぶ保健問題、過剰な人口増大そして低い福祉水準に起因する諸問題は、開発に必要な海外投資の誘致を妨害している。その他、大規模な対外債務、多額な軍事支出、弱い政府構造、固有の汚職などの要因もまた健全な発展を妨げている。

その結果、急激に二分化されつつある世界経済において、特定の地域、最も顕著なのが翼Tハラ以南のアフリカである浴@は、ますます除外されてしまっている。このような開発途上諸国経済に関して今日われわれが直面する最も重要な挑戦は、彼らを世界経済に再統合することである。

16. 開発政策: 確固とした持続可能な成長は、最優先的課題であり、IMFおよび世界銀行の政策にとって不可欠な部分のはずである。例えば、財政問題、環境問題、女性の役割などは優先すべき事項であるが、これらの問題が切り離されては貧困を緩和することはできない。農村人口がこれらの国々の大半を占めており、彼らの生産物に対し妥当な価格を払うことを優先すれば、より速い成長が促されるだろう。

過去における援助供与国の絶え間ない優先度の変遷が、首尾一貫した開発の重大な障害となってきており、この目的の恒常的な変化は整合性のある長期的戦略の台頭を阻止してきた。成長を他の目的の次に置くという傾向は、成長なしにはその他の問題が未解決のままで残りうるという事実を無視してきた。成長の全体的目的を優先させることによってのみ、開発途上諸国経済は自らの力で諸問題を解決する資源を獲得できるのである。

17. 投資: 確固とした持続可能な成長を達成させるための核心は、外国投資を惹きつける能力である。効率的な政府、法改正、金融改革および資本市場の開発を促進する上で、国際機関はこのような投資を誘致しうる環境作りという重要な役割を担っている。

8. 政府開発援助(ODA: ODAは、このような成長の促進にとって不可欠な手段ではあるが、まったく問題がないわけではない。三つの改革が必要とされている。

(ア) ODAの対象の選択を厳しく行うべきである。焦点の定まらない現行のアプローチは、成果を生み出すには定見がなさすぎる。

(イ) 過剰な国防支出の削減を拒む国々にはODAを停止すべきである。さもなくば、援助は、国防部門に向けた資源の代替とほとんど変わらないものとなってしまう。

(ウ) 人口増大を抑制し国民の福祉水準を向上させるために十分に努力する国々に対してODAを集中させるべきである。この問題と取り組まない限り、援助の水準にかかわりなく、真の一人当たり所得の増大を達成することは極めて困難なものとなろう。

ODAに関して、以下に挙げる四つの重要な領域を強調すべきである。

(エ) 教育: 開発途上諸国経済が世界経済に完全に組み込まれるためには、諸外国と同等に競争する上で要請される技能を備えることが必要である。

(オ) 疾病の抑制: 例えばサハラ以南のアフリカでは、感染力の強い病気(特にエイズ)や寄生虫が原因の病(特にマラリア)が15歳から44歳までの死因の53パーセントを占めている。現行の保健援助に加えてバイオ医療による支援でかなりの改善の可能性がえられるだろう。

(カ) 女性の役割: 家族計画プログラムを成功させるためには、特に女性を対象とする十分な教育の普及と女性の権利としてビジネスに女性を参加させるよう、法改正を先行させることが重要である。

(キ) 社会保護: 家族計画プログラムに加えて社会保護に注目することは、人口増大の根本的原因のいくつかと取り組むことを可能にし、少人数の子供では老後の経済的保証がなくなるという恐怖感を人々から払拭させうる。

19. 貿易: 現行の交易条件は、多くの開発途上諸国経済、とりわけサハラ以南のアフリカを差別している。世界がますます特恵地域や特権地帯を組成するにつれて、これらの途上諸国は、自国が国際貿易システムから巧妙に除外されていることを認識することだろう。このような不平等は是正されなければならず、またより公正な交易条件が整備されなければならない。

特に、このような経済では最多数の人口が農業に従事していることから、先進諸国は国内の農業部門に現在与えている補助金を削減もしくは撤廃することによって開発に大きく貢献することができる。このような補助金は、開発途上諸国経済を阻害するだけでなく、自国社会の深刻なゆがみを表している。補助金の撤廃が農村部に不利な影響を及ぼすことは認めるが、地方再生プロジェクトのために資金の一部を移転することで、これは十分に相殺することができる。

グローバリゼーションの挑戦に適応しうる先進開発経済の再構築

20. 多くの先進国経済はグローバリゼーションが創出する新しい状況への適応に失敗している。多くの国々の経済部門は、硬直した労働慣習、不十分な教育や訓練のために不利な状況にあり、新規投資の魅力を減退させている。

その結果、これら諸国は疑う余地もなく新しい状況から総合的には益しているものの、こうした利益は不公平に配分される傾向にあり、それら社会においてますます多くの、主として非熟練労働者が取り残されつつある。

同時に、とりわけ西ヨーロッパを中心とするこれら諸国は、戦後期にそれぞれの社会の社会契約の基盤であった福祉サービスに資金を十分に配分することが、ますます困難になりつつあることを認識している。これによってグローバリゼーションに対する反動が予想され、グローバリゼーションが提供するさまざまな機会を無駄にしかねない。

21.こうした状況と取り組むための第一歩は、先進経済諸国の政治指導者が低賃金経済諸国との競争を国内問題のスケープゴートとして利用することを自制することである。低賃金経済諸国からの競争と先進経済諸国において増大する不公平や失業との間に存在するとされている関連を裏付ける十分なデータは現在のところ不足している。賃金水準と生産水準との一般的な符合は、このような関連が経済部門の大部分において具現化しないだろう。先進諸国の問題は、自国の状況が生み出したものとして第一にに捉えられるべきである。

22.従って、これら諸国が担う主な責務は、彼らの経済を低賃金競争から守ることではなく、むしろ賃金水準よりも生産水準を高めることである。生産水準が上昇すれば、先進経済諸国はその競争力を取り戻すことができよう。これは以下を示唆している。

(ア) 雇用慣習においてより弾力的なシステムを創造するために労働市場を再構築する
    努力

(イ) 特に新しい技術の使用において、基本的な教育および職業訓練能力を強化する試    
    み 

23. しかし同時に、変化に伴う最悪の結果を緩和し、先進諸国内において熟練・非熟練労働者の間で拡大する不公平を是正し、流れがますます加速している資本と活気を大きく欠いた労働者との間に生じる力の変化を制御する努力がなされるべきである。各国政府は、こうした変化に伴い失業した人々への救済対策と労働市場に再参入できるよう再訓練の機会を供与しなければならない。

24. このような措置は、社会の理解とコンセンサスの育成を基盤に、新たな産業デモクラシーを構築する努力という広範な文脈の上に成り立たたせなければならない。先進工業民主主義諸国を過去50年支えた社会契約を、グローバリゼーションの過程がもたらした状況の変化に適応させるために立案し直す必要がある。何らかの形の契約は、グローバリゼーションに対する極端な反動の防波堤として必要不可欠であるばかりでなく、これら諸国における総意に基づく政治を継続させる上でも欠かせない基盤である。例えば、労働者側の責任ある賃上げ要求に呼応するものは、グローバリゼーションの過程で悪影響を受けた人々を支援するという国家側の責任の認識である。

結 論

25. 結論として、グローバリゼーションが強制する経済問題をより広範な地政学上の文脈から切り離して考察することは、究極的に不可能であることに留意しなければならない。われわれがグローバリゼーションの機会から利益を得ようとするなら、相対的に安定した戦略的環境が不可欠な前提条件となる。

しかしこれは決して冷戦の終焉に関連づけられた勝利主義が示唆するほど安定したものではない。旧ソ連邦、バルカン諸国、中近東、インド亜大陸、東アジアなどの多様な地域では紛争の潜在的可能性が残され、これも抑止しなければグローバリゼーションの挑戦を受けて立つわれわれの機会に深刻な影響を及ぼすだろう。

従って、ここで提案されている経済管理の構造は、安全保障の管理の構造を強化することによって補われることが必要不可欠であると思われる。このような構造があるべき的確な姿を考えることは、国連および安全保障理事会の将来、NATOとロシアとの関係、中近東の和平、その他さまざまな地域的諸問題と同様に本専門家グループの範囲を超えている。しかしわれわれは、世界のこうした地域の安定を強化するためにも協議と協力が急務であることを明白にしたい。





出席者:



メンバー



キャラハン卿、英国元首相

ヘルムート・シュミット、西ドイツ前首相

アンドリース・ファン・アフト、オランダ元首相

マルコム・フレイザー、オーストラリア元首相

ピエール・エリオット・トルドー、カナダ元首相

ミゲル・デ・ラ・マドリ、メキシコ元大統領




専門家


Dr. Kwesi Botchwey - former Finance Minister of Ghana, now visiting at Harvard

Prof. Jeffrey Sachs - Harvard University

Prof. Paul Hirst - Birkbeck College, London

Prof. Haruo Shimada - Professor of Economics, Keio University

Dato Dr. Noordin Sopiee - President, ISIS, Kuala Lampur

Dr. Meinhard Miegel - Director, Institut fur Wirtschaft und Gesellschaft, Bonn

The Rt. Hon. Robert McNamara - former President, World Bank

Dr. Jesus Estanislao - President, University of Asia & the Pacific, The Philippines

Mr. Jesus Silva-Herzog - Ambassador of Mexico to the U.S.A.

Ms. Flora Lewis - International Herald Tribune

Dr. Teizo Taya - Director, Daiwa Institute of Research, Japan

The Hon. Jack Austin - Senator of Canada

Dr. Alastair Murray - University of Wales Swansea





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