. To Create a Stable International Financial System in Japanese | |||
「安定した国際金融システムの創出」 に関する専門家会議報告書
議長:クルト・ファーグラー 1996年3月28ー29日 於:スイス、ジュネーヴ |
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1. 過去10年程の間に外国為替および国際資本市場においていくつかの重要な進展が見られた。こうした進展の主な影響は、国際経済システムに新たな制約を課すとともに、新たな機会と挑戦をもたらすことであった。 2. まず第一に、国際資本市場への開発途上国の統合によって国際資本の流出入のパターンが劇的に変化したことが挙げられる。新たな特徴は、先進国から開発途上国への資本の流れの増大する規模である。これは10年前に比較すると完全に新しい状況である。 3. この第一の進展に付随して発生したのが資本の流れの構成の変化である。過去5年間に直接投資が急増した。債務危機に続いた「失われた10年」の後に大規模な資本の流れが再開された1980年代の末、資本の移転の新たな経路は貸付よりも投資となった。債務(債券発行および銀行貸付)等のその他の資金の流れは依然として重要ではあるが、開発途上国に対する資金の流れは未曽有の量とシェアが直接投資の形態をとっている。ある国々においては、株式投資も重要になってきている。 4. 第三の大きな変化は、外国為替市場における取引額の規模である。外国為替の世界的な取引量は恒常的に増大しており、全体的な外国為替取引量と財貨の交易を伴う取引の間の格差は拡大する一方である。 5. 金融オペレーションの一層のグローバル化に関連するこうした進展は、明らかに為替レート、国際金利のリンケージさらに金融システム全体の安定に深く浸透する影響を与えている。 6. その結果、安定を強化し、注意を払うべき主な分野として、エマージング経済(開発途上から台頭しつつある経済)、銀行制度、為替制度が挙げられる。 7. 資本市場の統合は、資金のより良い配分を可能にし市場に規律を課すことから、基本的には善しとみなされており、従って我々はこれに背を向けるべきではない。しかし、重要な課題は金融の一層のグローバル化の中で、開発途上国が資本の流入の規模とその逆流出によって撹乱されないことを確実に保証することである。 8. 事実、この文脈において過去数年間で最も重要な事件であったのが、海外からの巨額な短期資金に依存しているエマージング経済の脆弱性の例証となったメキシコ・ペソ危機であった。しかし、驚くことに、メキシコ危機の伝染効果は限定されており、実際に苦しんだのはファンダメンタルスの弱い国々だけであった。従って、この事件によって得た教訓は、市場をしてエマージング経済を差別化させたことである。 9. しかしながら、疑うまでもなく、このような危機の再発防止のための行動が必要となる。メキシコ・ペソ危機の源泉が不適切な政策ミックスだったことから、鍵は対途上国の資本の流れが適切な政策(緊縮財政、部分的な計画中止、為替レートの柔軟性)と合致していること、またこうした資金の流れの構成も適切であることを確実にすることである。事実、資本の流れが単なる消費支出に終わらず、生産的投資を刺激するならば、成長は促進できるのである。答は資本の規制ではありえない。資本の流入に対しては選択的な規制をする余地があっても、流出にはないのである。 10. 安定強化に寄与するもう一つの要因は、情報の普及である。市場へのより完全なかつ時宜を得た情報提供は、二つの理由から巨額でしかも唐突に発生する資本の逆流を阻止しうる。第一に、市場に対してより適切な情報を与えることは、基盤としてのマクロ経済に対する理解を深め、従ってより整合性がありかつ合理的な決定を可能にする。メキシコにおける最近の混乱からの教訓の一つは、経常赤字などの単一指標に焦点をあてることはあまりにも不備であり、マクロ経済の状況全体に対するより徹底的な評価が必要だということである。第二に、情報開示を義務づけることは、被投資国の政府に対して規律を与えることだという点である。 11. IMFの役割は、むろんこの点で最も重要であり、メキシコ・ペソ危機が発覚した時点でIMFが実施を試みた「早期警告システム」は確実に支持されるべきである。同じ文脈で、将来同様の財政危機に対応するために考慮されている多様な措置も奨励されるべきである。ただし、いかなるモラル・ハザード(道徳的危険)を回避するためにも極めて厳格な条項が付与されねばならない。 12. 最も開発の進んでいる開発途上諸国、いわゆる「エマージング経済」とは異なり、多くの最後発開発途上諸国が過去10年間のうちにますます開発から取り残されてしまった。国際経済システムの総体的な安定を強化するその他の領域として挙げられるのが開発援助(ODA)である。ODAの水準を適切に維持することは、疑うまでもなく開発途上世界における成長格差の一層の拡大を回避するために不可欠な方法である。このような開発の不均衡はグローバルな経済システムの安定に害をもたらす。 13. この点において、ODAの方向にとって興味深くかつ有望な動きは、家族計画もしくは軍事支出政策等に明確に目標が定められた条件を付加することである。 14. 国際金融市場における主な進展はデリバティブ商品の劇的な拡大である。デリバティブ商品は確実に有用な手段であり、金融リスクの分散と移転を可能にすることから重要な顧客のニーズに見合っている。こうした商品を通して、今や領域がさまざまに異なるリスクを定義づけ、またそのリスクをヘッジすることもできる。デリバティブ市場は最終投資家(産業、商業企業、政府系諸機関もしくは金融機関等に)に対し重要な保険サービスを提供する。それらはまた、ミクロ・プルデンシャル、マクロ・プルデンシャルおよびマクロ経済のレベルで価格設定、リスク制御および管理の方策をも提供する。 15. しかし、金融のグローバル化が必要かつ望ましいことであることを一般社会に認識してもらうためにも、この点を極めて強力に提唱していかなければならない。そうすることによって出てくる困難は、社会全般の大きな懸念事項である失業等の問題とこの進展を結び付けることである。透明性を高めることおよび新たな情報を明確にすることは重要な鍵であり、それはまた社会全般にとってもより良い情報である。 16. 銀行の主な損失は引き続き伝統的な融資業務から生じているが、デリバティブ商品はより広範なレバレッジを提供するとともに、適切に運用されなければ巨額の損失に導いてしまう。デリバティブ商品の取り引きから生じる損失の結果である不安定性というリスクを管理するためには、対応措置を増やすことによって銀行制度の規制を強化することが必要となってくる。有望な選択肢は例えばリスクの評価審査テクニックを実施することである。 17. おそらくこの文脈において、より一般的には二つの企業内部管理の要素が特別の注目に値する。すなわち、i)経営者が企業のかかわる活動を理解し、ii)過剰なリスクを負わない範囲で従業員の補償制度を再検討することである。事実、ディーラーや幹部に対する補償をより良く構築する必要性が確実にある。より強い責任をもたせるためにもボーナス制度を改正すべきである。一つの可能性としては長期的実績に従ってボーナスを設定することであろう。 18. おそらくこの挑戦に対する答は、競争が助長するより良い管理にあろう。一般的なモットーは透明性を高め複雑さを緩和することである。しかしデリバティブ商品はこの筋書きの一部にすぎず、より一般的には、金融取引きの劇的な拡大は介入と規制を求めている。これに関し、二つのレベルで行動が取られるべきである。つまり、規制とここでもまた情報である。超国家的規制は決して出現しないだろうことからも、各国の監督官の協力が確実にその答となる。そのためにバール委員会によって起案された監視および安全保護の定義付けが推奨されるべきである。 19. さらに規制に関する限り、金融機関ではない他の諸機関を規制の対象に加える必要性が確実にある。その結果、調整は各国間に加えて諸部門間(銀行の監督官、証券の監督官および保険の監督官の間)でも必要である。 20. 為替レートの不確実性は貿易のみならず、実質経済にも深刻な影響をおよぼすことから、これをより予測可能にする必要性は一般的に認識されていることである。為替レートの短期変動よりも、問題の本質は長期にわたる為替レートの乱高下の継続である。それはそれとして、各国政府が為替レートの動向を懸念し、そのような不安定を緩和する努力が適切であることに疑問の余地はない。 21. 為替レートは期待感に左右されるので、適切で持続可能な経済政策に基づく妥当かつ安定した期待感が形成されなければならない。このような目標に向け、政策の持続性は国内のみならず国際的観点からも達成されるべきである。これは国際政策の協調や国際機関の一定の役割の必要性などを示唆する。しかし、安定した政策自体が為替レートの安定性を保証するものではない。 22. 実行に移すにはかなりの問題があるものの、為替レートの安定に向けた選択肢として、ターゲット・ゾーン(目標圏)の設定が挙げられる。これにはまず第一に、中央レートの設定に合意されねばならない。第二に、中央レートの変更に伴う条件や頻度などについての合意も必要である。一般的にみて、ターゲット・ゾーンは一層の安定化につながるだろうが、その実現可能性には疑問が残る。これに関して重要なのは、ターゲット・ゾーンを護るという各国政府のコミットメントの強さである。しかし、そのようなコミットメントは、ターゲット・ゾーンが効果を発揮するために必要とされる信憑性を付与するためにも不可欠である。もう一つの問題は、基本的な不安定を単なる為替投機と識別することに関連してくる。最後に、そうした施策の効果的な実施は、信憑性を損ねることなく為替レートを調整する困難さにかかってくる。 23. しかしながら、為替レートのターゲット・ゾーンの定義は、どのような形態をとろうとも、期待感の安定に寄与するだけでなく、システム全体の予測可能性を高めるだろう。各国政府が為替レートの防衛に踏み込む条件を定義することは、一つの妥協的解決策であろう。 24. 為替レートの安定化は、G3諸国、すなわち米国、日本およびEUのみにかかわる問題ではない。第一に、為替レートの変動に関する問題は、EU間にも存在するので、将来のEMU加盟諸国やその他のEU加盟諸国間の協調体制も奨励されるべきである。さらに、二つの主要通貨間の不協調は、第三国にも広く影響を及ぼすことから、このような問題は二国間よりも国際的な対応が望まれる。従って、国際通貨基金(IMF)の密接なかかわりも為替レート管理には必須である。 25. 為替レートの安定化に関するもう一つの課題は、欧州単一通貨が為替レート制度の中で果たす役割である。欧州単一通貨が準備通貨の役割を果たすとすれば、米国経済に対し規律的な影響を及ぼすこともあるだろう。 26. 最後に、金融およびマクロ経済情報をより一層市場に提供することによって期待感の形成が緩和させられれば為替レートの安定化に寄与しよう。そのような情報提供は、国際通貨基金(IMF)の使命であるべきだ。しかし、さらなる開示や情報は、市場がそれらの情報を必ずしも適切に読み取れないことから、万能薬たりえない。 |
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