In Search of Global Ethical Standards in Japanese |
「普遍的な倫理基準の探求」 |
はじめに 1. 人類の文明が21世紀に向かうにつれて、世界は少なくとも産業革命に匹敵する深遠かつ広遠な変革の時代に突入している。世界経済のグローバル化は、諸問題 −−人口、環境、開発、失業、安全保障、道徳・文化的衰退等−− のグローバル化をもたらした。人類は正義と物事に意義を見いだすことを切に願っている。 2. 技術と応用科学の物理的変化は、それに応える諸機関の能力をはるかに越えている。国家はいまでも集団的意志を具体的行動に移す主な手段ではあるが、国家主権という概念は世界いずこでも包囲下にある。有名な表現を復唱すると「国家は大きな問題に対しては小さすぎ、小さな問題に対しては大きすぎる」のである。多国籍企業は、世界貿易と投資が拡大するにつれて前例のない機会を享受しているが、その経営者たちは現在人権という不慣れな領域における企業責任という苦しい設問に直面している。宗教界は依然として数億人にものぼる人々の忠誠を集めているが、世俗主義や消費主義がそれ以上に支持されている。世界はまた、宗教の名のもとに唱道され実践されている宗教過激主義や暴力に苦しんでいる。これに関して、「原理主義」という言語の使用は誤称である。というのも、 信者はどこでも彼らの信仰原理を深く信じているが、暴力を否定し、彼らの信条を広げるための力の行使を拒否しているからである。世界は絶え間なく変化している。我々はどこに向かうべきなのだろうか。 具体的な改善策 4. 普遍的な倫理の推進をある程度成功させるためには、信仰体系やその影響範囲が異なる多様な世界的宗教が、主権国家や関連諸機関を説得するために密接に協力しあうことが不可欠であり、かつ決定的である。これは少なくとも二つの重要な機能を果たす。一方で、今日人類が直面する諸問題の緊急性や世界的危機と闘う上で、このような協力に務めることは、必要とされる倫理基準の役割について合意するために、異なる宗教が実際に心を開いて語り合うことが可能であることを立証する。他方、世界のすべての宗教が普遍的な倫理基準を推進するために協調しつつ行動できるという事実は、このような基準を世界中に広める任務を容易にさせる。 5. 世界の宗教指導者会議は、普遍的な倫理の理論的根拠の考え方を普及させることができる。このような会議は、とりわけ主権国家とその指導者たち、教育機関、マスメディア(テレビ、ビデオなど)とともに自らの宗教団体に対し、あらゆる可能な手段を用いて普遍的倫理に関する合意を取り入れ、推進するよう具体的に勧告することができる。会議には必ず女性を含む宗教会の代表者が出席することを強調すべきである。現存の世界的宗教組織がこのような会議を推進しうる。 6. この宗教家グループによる提言は主に各主権国家における政府、教育、マスメディア、非政府・非営利団体、宗教団体の政策決定者に提出されるべきである。これらの機関は、直接的にも、間接的にも、世界の宗教に関連する基本的情報および提言に織り込まれる普遍的倫理基準の普及と啓蒙に関与しているからである。 7. 世界は普遍的倫理基準の普及・推進のための具体的な行動計画について語り合うことを歓迎するだろう。こうした行動計画の要素には以下も含まれるべきである。 9. 世界の宗教は、人類にとって英知の偉大なる伝統の一つである。はるか古代に起源を発する英知の宝庫が今日ほど必要とされる時はない。政治活動は価値や選択と関わりが深いので、倫理は政治や法律より優先されなければならない。倫理は従って我々の指導者を啓蒙し、鼓舞しなければならない。最良の教育とは、理解や寛容に対して人間が持つ潜在能力を切り開くものである。倫理や「正」と「悪」の教育なしでは我々の学校は、いずれ不必要となる労働力を大量生産する単なる工場と化してしまう。マスコミは人の心や行動に影響を及ぼす最も強力な手段の一つである。しかし多くのマスメディアに見られる暴力、堕落、陳腐さは人類の精神を向上させるどころか汚染している。 10. このように変化する世界に対応するためには、各機関が倫理基準に再び専心することが必要である。世界の宗教および倫理の伝統の中にそのような専心の源を見いだすことができる。そこには我々の民族、国家、社会、経済および宗教間の緊張を解決に導く精神的な力がある。世界の宗教の教義はそれぞれ異なるものの、すべてが基本的な基準を共有する倫理を唱道している。世界中の信仰を統一するものの方が分離するものよりはるかに大きい。すべての宗教が自己抑制、義務、責任そして分かち合いを美徳として唱えているのである。それぞれが人生の不可思議を考察し、全体に意味を与えている模範をそれぞれの方法で識別している。我々がグローバルな問題を解決するためには、共通の倫理基盤から始めなければならない。 12. 国連が「世界人権宣言」を採択したことから始まった国際法および司法に基づく人権強化は、顕著な進歩を遂げている。これはさらに「市民社会・政治的権利」および「社会・文化・経済的権利」の二つの人権誓約によって強化され、「人権と行動計画のためのウィーン宣言」によって推敲された。国連が権利の水準に関して宣言したものをシカゴ宣言は確認し、義務という視点から深化させた。それは人間に本来備わっている尊厳、奪うことのできないすべての人間の原則的平等と自由、すべての個人と社会全体にとっての連帯と相互依存の必要性である。また我々は次のことを確認している。すなわち、より良い世界秩序は法律、法規、条約のみによって創造あるいは強制されるものではないこと、権利と自由のための行動には責任感と義務感が伴うこと、そのためには男女双方の精神や心に呼びかけねばならないこと、義務を伴わない権利は永続せず、また普遍的な倫理なくしてより良い世界秩序はありえないこと、である。 13. 普遍的倫理はトーラ、聖書、コーラン、バガバットギータ、仏教の法典あるいは孔子その他の教えを代替するものではない。普遍的倫理とは、最低限必要な共通の価値、基準および基本的態度をもたらすものである。換言すればそれは、教義はそれぞれ異なるものの、すべての宗教にも肯定され、無神論者にも支持されうる拘束力のある価値、普遍的基準および道徳的態度に関連する最小限の基本的合意である。 14. 宗教史上初めて共通事項に関する最小限の基本的合意を明確にしたシカゴ宣言を肯定するにあたり、我々はすべての個人、社会、政治倫理に必要不可欠な二つの原理を提言する。 − 連帯と公正な経済秩序の理念への誓約 − 寛容と誠実な生活の理念への誓約 − 平等な権利と男女間のパートナーシップの理念への誓約 16. 家族計画政策とその手段へのアプローチが各宗教間で異なることを認識したうえで、今日の人口動向は効果的な家族計画の追求を不可欠にしているということが合意された。いくつかの国々および宗教による積極的な経験は分かち合われるべきであり、家族計画に対する科学的調査もより一層推進されるべきである。 17. あらゆる段階における教育は、若い世代の心に普遍的な倫理価値を植え付ける重要な役割を担っている。小学校から大学まで、カリキュラムや講義には共通の普遍的価値を織り込み、自ら奉じている宗教以外の教えに対する理解を深めさせていくべきである。教育課程では「肯定的な寛容」という価値感を教え込み、カリキュラムの教材もそれに従って作成されるべきである。若い世代の将来への志を育むことに重きを置かなければならない。UNESCO、国連大学およびその他の国際機関は、この目的に向けて協力していくべきである。電子メディアの協力もとりつけるべきである。 18. 我々は、国際緑十字と地球カウンシルが提起し、現在進行中の「地球憲章」制定への過程に留意する。我々はこの動きを持続可能な開発への転換に必要な政府・民間・市民社会などの価値観や姿勢態度の基本的変化への努力の、宗教界やその他のグループを巻き込んだ初めてのケースとして歓迎する。 19. 生命の尊重は倫理的誓約の中核をなすことから、戦争や暴力による惨害との闘いを世界の再優先課題としなければならない。とりわけ早急に次の二つの問題に関心を寄せなければならない。1)小型兵器、半自動・全自動兵器の取り引きは抑制されなければならず、このような兵器が簡単に入手されることがないようにしなければならない。2)小型兵器と同様に、地雷も多数の無実の生命を奪ってきた。これは、カンボジア、ユーゴスラビア、アフリカ、アフガニスタンでとりわけ深刻な問題となっている。地雷の組織的除去と破壊は急を要する。 インターアクション・カウンシルのメンバー ヘルムート・シュミット (議長、前西ドイツ首相) アンドリース・ファン・アフト (元オランダ首相) ピエール・エリオット・トルドー(元カナダ首相) ミゲル・デ・ラ・マドリ (元メキシコ大統領) 専門家 A.A.マグラム・アル・ガムディ (ロンドン、キング・ファハド・アカデミー学長) 荒木 美智男 (筑波大学教授) シャンティ・アラム (インド、シャンティ・アシュラム総長) トーマス・アクスウォーシー (カナダ・CRB財団理事長) アブトリアヴァド・ファラトゥリ (ドイツ・ケルン大学教授、イスラム学アカデミー学長) アナンダ・グレロ (元スリランカ控訴裁判所判事) キム・キョン・ドン (韓国、ソウル大学教授) ケーニッヒ枢機郷 (元ウィーン大司教) ハンス・キュング (ドイツ、チュービンゲン大学教授) ペーター・ランデスマン (オーストリア、ウィーン大学教授) リュー・シァオ・フェン (香港、中国キリスト教学研究所学長) L・M・シングヴィ (ロンドン、インディア・ハウス高等弁務官) マージョリー・スコッキ (アメリカ、クレアモント神学校学長) ジャーナリスト フローラ・ルイス (インターナショナル・ヘラルド・トリビューン) オブザーバー 山口 シヅエ 元衆議院議員 |
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