. 1993 Bringing Back Africa to the Mainstream of the International System in Japanese

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「ラテン・アメリカの危機と変化」

専門家グループによる結論および提言

議長:マリア・デ・ルードス・ピンタシルゴ

1992年2月2829

於:米国、ワシントン D.C.

I.世界におけるラテン・アメリカ
   1.ラテン・アメリカについての基本的事実
      2.
世界秩序におけるラ米
  
3.ラ米の危機

II.経済および社会危機への取り組み
   1.貧困との闘い
  
2.麻薬の供給、需要、取引の連鎖の抑制
  
3.教育制度の著しい成長

III.政治改革に挑戦して
    1.参加民主主義に向かって
   
2.国家の役割
    3.統合の追求

IV.世界におけるラテン・アメリカの今後の役割

専門家会議の参加者
  

I.世界におけるラテン・アメリカ

1.ラテン・アメリカについての基本的事実

 ラテン・アメリカ(ラ米)についてのイメージは、累積債務、民主主義体制の激変、人権の侵害といった認識にしばしば支配されてきた。ところが、今世紀のラ米の体験はむしろ多様で、心強いものになっている。1900年から1990年に、すべての地域で最大の平均年間GDP成長を記録した。これには1970年代を通じた拡大期も含まれている。

 しかし、1970年代の終わりには、この地域は多くの国々での民主主義の崩壊、軍事独裁政権の誕生、経済の崩壊、債務の波という劇的な時期に移っていった。その結果ラ米は、世界の生産、商業、金融、技術の各システムにおいて重要性と影響力を失ってしまった。

 1990年代の初め、社会、経済、政治においてラ米はぬきさしならない状態に陥っていた。政治的には、民主主義と人権の尊重が、南米大陸のほとんどで復活した。さらに経済的均衡を取り戻すために、第一の目標はマクロ経済の成長、債務のリスケジュールおよび経済の解放であるという合意がラ米諸国と国際金融開発機関に台頭した。しかし、ラ米は貿易、金融、通貨システムで世界の中心から周辺に大きく押しやられたままである。この状況はより多くの関心が東欧と中欧に向けられたのでさらに悪化した。

 いくつかの統計的資料によって今日のラ米の基本的問題点が明らかになる。

  • 1980年から1990年までにラ米の人口は3億6100万人から4億4800万人に増加し、世界人口のそれぞれ8.1パーセントと8.5パーセントであった。西暦2000年までに人口は約5億4000万人に増加し、世界人口の8.6パーセントを占めるだろう。

  • 1985年から1990年の期間、人口増加率は2.09パーセントで、このうち都市人口が2.99パーセント増加し、農村人口は0.53パーセント減少している。1995年から2000年の期間では、人口増加率は減少して1.78パーセントになると予測されており、このうち2.36パーセントは都市人口の増加により、0.42パーセントは農村人口の減少による。

  • 1990年には、貧困層は都市人口の50パーセントを占め(1960年には28パーセント)農村人口では40パーセントから45パーセントであった(1980年には54パーセント、1950年には80パーセント)。

  • 1990年に、ラ米の実質GDPは2パーセント減少したが、国別の実績にはかなりの不均衡が見られる。伸びを示したのがメキシコと中米(3.08パーセント)およびアンデス各国(2.4パーセント)で、実質的に減少したカリブ海諸国(-1.7パーセント)および南端諸国(-4.1パーセント)とは対照的である。

  • 1989年の一人当たりGNPは、1950米ドルにのぼった。

  • 世界のGDPに占めるラ米の割合は、1950年代には14パーセントであったのに対し、1984年から1986年の間は3.8%に下落した。

  • 1980年代には、生活水準は1977年の水準に低下した。

   1980年から1984年の間、インフレ率は90パーセントに達した。1988年には286パーセント、1989年には533パーセント、1990年には1200パーセントにまで上昇した。

   1975年から1985年の間、教育への政府支出の対GNP比率は、4.5パーセントで安定している。13カ国はこの期間に支出を削減している。

   1975年から1985年の間、保健衛生への政府支出の対GDP比率は約2パーセントであった。

   1988年、ラ米全体で軍事目的におよそ126億米ドル、GNPの3パーセントにのぼる額を費やした。

   ラ米およびカリブ海諸国の対外純債務は、1980年代半ば以来、年間約4000億米ドルである。

2.世界秩序におけるラ米

 冷戦の終結は新しい世界システムを築く格好の機会を提供している。出現しつつある新しい国際システムは、地球的な性格を備えた新しい諸問題と取り組まなければならない。すなわち、人口の圧力や移動、民族闘争、経済上の不平等、環境問題である。いかなる国もこれらの問題から、とくに社会、環境的に持続可能な開発の探求において、自国を切り離すことはできない。他のすべての地域と同様、ラ米はこの努力に責任ある立場のれっきとしたパートナーとして統合されるべきである。

 往々にしてラ米は、先進工業諸国に直接的、間接的に影響を与える諸問題(環境、麻薬取引、人口移動など)の解決では単なる問題対象として認識されている。しかし、同地域には基本的に功利主義的な観点を超えた可能性がある。経済の再活性と政治に新鮮さを取り戻すという双方から、このような価値観はこの地域が過渡期のさなかにある時に、とくに強調されるべきである。

 変遷しつつある新世界秩序に必要な合法性と安定性を提供するために、国際社会はその道徳感を調整し、責任と義務の対象性を求めなければならない。

 過去には、ラ米は、他の多くの開発途上地域と同様、知ってか知らずか、国際関係における二重基準の犠牲になってしまった。

  • ラ米は市場開放経済モデルを採用し、経済を完全に自由化するよう迫られた。この間、先進工業諸国の経済は強度に保護主義的だった。

  • ラ米は環境政策の策定において、条件付き制約を受け入れるよう促された。この間、先進工業諸国はそれに相応する措置を持たない、またはその採用を拒否した。

  • ラ米は財政と貿易の不均衡解消を目的とするマクロ経済政策を追求するよう強制された。この間、主要先進工業諸国は、必要とされる是正措置を採ることなしに、毎年この双方で不均衡を発生させていた。

  • 外部からの金融へのアクセスを獲得するために、多くのラ米諸国は、各々の開発計画に多大な影響を及ぼす巨額の経済、政治、社会的コストを伴う厳しい国内措置を受け入れざるをえなかった。こうした条件は総合するとラ米各国政府の開発制作の立案と実施を大きく損なった。

 倫理の次元を超えて、ラ米が直面している問題には、将来の福祉、安全、そしてまさしく人類の生存に影響を与える性格と重要性がある。

3.ラ米の危機

 ラ米における民主的な若返りにもかかわらず、政治および経済の移行過程から生じる問題の結果として、民主制度は極度の緊張を強いられている。この移行過程は従来の政治的方策やアプローチではもはや対応できない。政治危機の兆候はますます明白である。ペルーやベネズエラの場合のように、あるいはその他の国々の社会的緊張でもみられるように、最大の要因は貧困である。議会や従来の政党の合法性と効率性、また政治過程へのより多くの大衆の参加のための制度などの基盤を築くそれらの能力について、いま疑問が投げかけられている。

 突出した挑戦の一つは、ラ米が自分らの政治過程のニーズを新しく概念化し、再構築することである。

 その他の基本的な挑戦は、ラ米が世界規模の経済回復を支援し持続できるような方法で、この地域の活力と可能性を復活させることである。

 国際的場面で継続性と能力あるプレーヤーとしての役割を確立するために、ラ米自身が自らのアジェンダを決定し、実行に移さなければならない。民主主義と市場の顕著な例は、政治、経済、社会の各過程を組織することに必然的に影響を与える一方で、国家あるいは地域的背景および文化、社会、宗教、政治の伝統に頼らざるを得ない。

 したがって具体的なラ米開発のモデルは、経済の変遷、社会的統合、人的資源に権能を与えることなど様々な要因を目的とする責任と目標に基づいて考案され、補われるべきである。実体のある結果を生み出すために、このような責任と目標は、資源配分を左右する優先度の再方向づけを伴わなければならない。市場だけでは公平を確保し長期的開発問題を解決することはできないので、国家的介入が引き続き必要とされるだろう。しかし、このような介入を測る尺度は設けられねばならない。

II.経済および社会危機への取り組み

1.貧困との闘い

 ラ米における貧困問題は点在しているわけではない。むしろ、広範で構造的現象で、都市部にも農村部にも同様に存在している、確固たる、しかも悪化の一途をたどる現実なのである。この貧困問題は社会基盤そのものを脅かしている。ラ米における貧困問題には主要な原因がいくつかある。

  • 何世紀にもわたってラ米を支配し、土地所有権や生産手段の配分と結びついている不公 平な所得配分。

  • 多くの貧しい農村人口を作り出している農地改革の不在。

  • 1980年代のマクロ経済調整計画実施における経済、社会、政治危機の重荷が社会支出の 激減を招き、これは社会の最貧困層の重荷となった。

 ラ米における貧困との戦いは、この地域の政府すべてが直面している非常に大きな政治的、経済的、社会的な問題である。貧困にまず優先的注目を寄せなければならない。既成の短期的な解決策などはない。具体的な対策をたてなければならない。あらゆる指導者の創造力と能力の焦点を、債務や環境問題の管理に向けられているのと同様の熱意と責任感をもって、この問題にあてるべきである。

 貧困はまた、環境の悪化と枯渇、および麻薬取引を引き起こす主要な要因でもある。したがって、貧困の根絶は国際的に緊急を要する問題にもなっている。

 「社会公正」を求める政策は、もはや共産主義的イデオロギーや傾向と同等ではない。最貧困層の所得水準における長期的改善と、マクロ経済的枠組みの安定化とともに基本的ニーズを満たすサービスの提供を確保するために、効果のある多部門間政策が策定されなければならない。さもないと、悲惨な貧困への下落は続くだろう。

 現在の経済成長、改革、調整の包括政策は、貧困を緩和し社会発展と大衆参加をはぐくむ努力とは相入れない。これが継続されてはならない。経済改革は社会の公平なくしては、保持することはできない。

 長期的には、貧困と社会問題は安定したマクロ経済的環境がなくては取り組むことができない。政策の予測可能性のうえに築かれた経済成長は、引き続き貧困との戦いにおいて成功を収めるための条件である。財政的に健全な政策は、インフレと戦い、財政赤字を軽減しなければならない。これは、世界中のメディアの見出しからは消えてしまったものの、いまだに多くのラ米諸国にとってもっとも深刻な問題である、債務危機に対する解決策がなくては不可能であろう。債務のほとんどすべてが国家によって負われているため、債務履行は予算政策において重要な要素として存在し続ける。1980年代に、財政の不均衡は、その大部分が莫大な対外債務によって引き起こされ、国家予算の赤字、過度のインフレ、対外収支赤字、そして全般的な経済不秩序といった結果を招いた。その結果、各国政府とその国内における政治的な力は弱められた。したがって、まず第一歩として、経済の統制力をいま取り戻さなければならない。

 支出を抑え収入を生み出すために、各国政府は構造的に赤字の企業の所有権を手放し、社会支出に改めて振り向けることが可能な資源を自由にするべきである。農産業やその他の産業における中小企業を支援し、融資へのアクセスを容易にするべきである。

 各国政府の政策は、とくに都市部に移住した未熟練労働者を吸収し住居を提供するために、都市建設産業において雇用機会の創出を奨励し誘致するべきである。

 また、より効果的な税制と徴税体制の採用が、所得面の向上を助けるだろう。

 ラ米全体としては他の諸大陸と比べて軍事支出が少ないものの、それにしても軍事費削減の余地はある。これによって節約された資金は、教育と社会サービスに必要な資金を改めて振り向けるだろう。

 均衡予算を目指す一方で、財政政策はまた、差し迫った必要性がある部門における長期的性格をもつ莫大な社会投資(教育、保健、栄養物の提供)への資源の再分配ならびに収入の再分配の育成を求めるものでなければならない。とくに都市部では、農村部からの移住者の増大を背景として、インフラへの投資と公共サービス強化が差し迫った問題である。

 この危機と回復の期間には、富、投資、収入の集中が起こる傾向がある。収入の不公正な配分を是正するために、極度に保護主義的な政策は捨て去らなければならない。これらの政策は、効率が悪く独占的な企業家たちの手に収入を集中させる傾向があるからである。たとえこれが現行の政治感情や慣例とくいちがっているように見えても、農作業と耕作パターンの改革をともなった土地の再配分なくしては、農村部における貧困の軽減は成功する様子がない。このような措置の実施が遅れたり非効率的に行われたりすると、都市部への人口移動の圧力が増大するであろう。ここでは、財政再分配政策と社会安全対策が適用すべき唯一の手段である。

 政治的な行動とは別に、銀行や企業といった民間部門は、自分たちが貧困と戦うための革新性あるイニシャティブにおいて重要な役割を果たせることを証明している。これを奨励し、民間部門がその役割を容易に果たせるようにするべきである。

 必要とされるマクロ経済政策の成功にとって、国家の内部的まとまりは同様に重要な点である。このような政策は、実現するまでに長い時間を必要とするので、容易に選挙周期の犠牲になりやすい。再配分を求めるあらゆる努力に対する困難な障害を克服しなければならない。なぜなら、中流および上流階級の代表や利益が議会を支配しているからである。したがって、啓蒙された国内の政治的指導者は、何回かの選挙周期にかけて政治的安定をもたらすために国際社会から支援を受けるべきである。さらに、政治権力の集中は、小規模な社会や周辺地域の関心を適切に反映しない。

 貧困と経済開発はまた、サミット会談や国際機関の理事会の会合など、国際問題を議論する場において最も高い優先度を与えられるべきである。先進工業国と国際金融機関は、援助計画を貧困との戦いに再方向づけしなければならない。社会的回復、投資、改革のための中期的計画の採用は、貧困を根絶する国際的な共同努力をもたらすための前提条件となるべきである。

2.麻薬の供給、需要、取引の連鎖の抑制

 今日麻薬取引は世界的に、その性格上国境を超えた儲かる商売であり、国家の主権を侵害している。それからの収入は、主要な銀行や産業を巻き込んで、先進工業国に投資されている。コカや大麻はどのような気候でもまたどのような条件でも栽培できるため、ラ米諸国におけるコカ栽培の根絶が麻薬問題を終わらせるわけではない。逆に、薬品の空中散布による植物破壊が、この地域の土壌やその他の農業生産物の大破壊を引き起こしている。コカ葉の生産の抑制を目的とするいかなる手段も、同時に代替収入の可能性を、多くの場合貧困層のなかでも最も貧しい農民に提供するべきである。

 麻薬と麻薬取引は、いたるところの社会に知らぬ間に押し寄せる脅威となっている。したがって、各国政府はすべて、直ちに共同かつ個別に、短期・中期・長期的対応策を講じるべきである。いかなる生産管理も、生産国における経済的・社会的利益にかかわる。いくつかの生産国においては、麻薬取引者とテログループとのつながりが、社会基盤をくつがえし社会平和を危険にさらすという脅威を与えている。このようなグループの財政基盤は、警察や軍隊をはるかに上回る。

 これとは逆に、先進工業世界での麻薬消費の削減は、社会的価値観の変化をもたらす、奥の深い社会問題である。逆説的ではあるが、米国における麻薬取引とそれに関連する暴力は、麻薬のみが社会的・経済的改善のための唯一の手段ととらえる少数人種の若者を圧倒的に巻き込んでいる。

 明らかに、麻薬の需給を管理することは統合的アプローチを必要としており、その負担は関わりのある者すべてが分かち合わなければならない。

 実際のところ、麻薬生産および取引との戦いに対する国際的援助自身が、いらだつような問題を作り出す。供与する側の国あるいは機関の政策が、ラ米のある国のそれとは異なっていたり、そのような援助計画によって雇用されている同国人が、その国の司法機関に働く人々の何倍もの給料を支払われていることもある。したがって、汚職の危険性もある。

 さらには、厳格な政策を提言し、麻薬取引に対する計画を管理する政治的指導者や司法者は、個人的身辺について非常に大きなリスクを負う。有罪を宣告された麻薬取引者たちが、ある国々では有罪答弁取引を提案され、軽いまたは保留の判決を受ける場合、取り締まる人々の努力は、むだになってしまう。

 麻薬問題解決のための大きな負担は、ラ米諸国のみに負わせるわけにはいかない。とくに先進工業国、なかでも米国およびヨーロッパにおいて需要が著しく抑制されない限り、麻薬生産が止むことはないだろう。

生産、精製、貿易、消費のすべての段階において麻薬取引と戦うために効果的な国際計画の確立には、明白で監視可能な目標が生産国および消費国によって共同で策定されなければならない。さらに、共通に合意された水準での資金調達への誓約が、有害で犯罪にかかわる麻薬の側面についての国際的認識キャンペーンでもあるべきこのような計画の中核をなさなければならない。このような努力において、急速に主要な麻薬消費地域になりつつあるヨーロッパは、もはやその責任を回避することはできず、速やかにこのような共同努力に参加しなければならない。このような努力は、それを補う貿易措置を提供しなければならない。

3.教育制度の著しい成長

 無知が貧困を生み、不十分な教育制度が麻薬問題の主要因である。財政および債務危機、人口統計的な傾向、世界的な技術の変化が組み合わさって、教育とラ米における経済成長および発展過程の結びつきを弱くした。現在のところ、教育に使われる国家予算は5パーセントに満たない。

 教育は社会格差の揺りかごである。したがって、教育投資政策はこのような格差の是正を目的とするべきである。しかし、これらの政策が生まれるには長い時間が必要であり、一般大衆と政治家双方に忍耐と寛容を要求する。

 中心的課題の一つは、とくに限られた一般予算における教育制度の運営である。教育の内部的な効率性、すなわち、落第生や脱落者数を減らすことが、保証されなければならない。さらに、制度全体の経費効率性が強化されなければならない。各国はより少ない予算でより多くの事業をなさなければならない。

 この文脈において、教育制度の外郭は、勉強時間の長さ、学校で過ごす時間、生徒と教師の比率などに焦点をあて、定期的に見直される必要がある。調整や新しい方式は、必要な時にはいつでも導入されるべきである。ラ米はラジオ、テレビ、またはコンピューターを使ったさまざまな遠距離教育方法の採用を考える必要があるかもしれない。その他の地域では、このような技術が教育制度の運営コストの減少をもたらした。

 ラ米のほとんどの国における人口構成は、教育制度のすべての段階において二カ国語教育や多文化教育を必要としている。その一方で、ラ米内部およびラ米と世界の他の地域との間における人口移動の現実と重要性は、教育制度の内容に反映されるべきである。

 全般的にいってラ米各国政府は二分野で教育のための努力を集中させるべきである。

a)教師の質を向上させることによる、初等教育の質の大幅な改善

b)高等教育の質と国家開発の水準の間に直接関係がある場合の、高等教育への投資。このような投資は南米大陸の伝統と必要性に見合うべきである。

 このような政策の追求において、ラ米は外国のモデルを批判もせずに採用することは控えるべきである。大学入学は教育基準でのみ条件づけられるべきで、入学許可を得るための金銭および社会的基準は二次的役割のみを果たすべきである。

 南米大陸全体として、各国政府は「卓越した地域センター」(トップレベルの研究センター)の設定に合意すべきである。こうしたセンターは国家単位では経済的に無理であり、その必要とされる規模も地域レベルでしか提供できないからである。このようなセンターは、専門分野における高等教育の質的改善において、重要な役割を果たすことができるだろう。さらに、ラ米を世界の科学的発展に参加させるだろうし、「頭脳流出」を抑えることにも貢献するだろう。

a)教師の質を向上させることによる、初等教育の質の大幅な改善

b)高等教育の質と国家開発の水準の間に直接関係がある場合の、高等教育への投資。このような投資は南米大陸の伝統と必要性に見合うべきである。

 このような政策の追求において、ラ米は外国のモデルを批判もせずに採用することは控えるべきである。大学入学は教育基準でのみ条件づけられるべきで、入学許可を得るための金銭および社会的基準は二次的役割のみを果たすべきである。

 南米大陸全体として、各国政府は「卓越した地域センター」(トップレベルの研究センター)の設定に合意すべきである。こうしたセンターの設立は国家単位では経済的に無理であり、その必要とされる規模も地域レベルでしか提供できないからである。このようなセンターは、専門分野における高等教育の質的改善において、重要な役割を果たすことができるだろう。さらに、ラ米を世界の科学的発展に参加させるだろうし、「頭脳流出」を抑えることにも貢献するだろう。

III.政治改革に挑戦して

1.参加民主主義に向かって

 1980年代には独裁軍事政権から民主的に選出された政権への劇的な反転を経て、事実上全ラ米諸国が1991年に民主化を公約したが、このような公約を超えた一連の挑戦に挑まなければならない。すなわち、民主主義を実現化するための手段とメカニズムとは何か。民主主義を守ることのできる手段とは何か。ラ米諸国は主権をどの程度妥協する用意があり、深刻な人権侵害問題に介入する権利の概念をどの程度受け入れるのか。貧困層はどのようにして民主化の実践に組み入れられ、また現状の貧困下で民主主義は一体可能なのだろうか。

 1980年代の民主主義の勝利は人権尊重の精神を回復したが、同時に経済の悪化も進んだ。この矛盾はこれから起こるであろう困難の前兆なのだろうか。明らかに、民主主義的ルールへの脅威、特に広範囲にわたる教育の欠如と貧困とが存続している。人民主義的な解決が魅力的になり、苦労して勝ちとった経済安定を危うくし、社会の混乱や国家の統治不能の前兆となるかもしれない。その分脈で、軍部独裁という妖怪は根絶されなかった。民主主義とは人権侵害の組織的な形態への後退を防止できる唯一の体制である。

 単に選挙が行われているからといって、民主主義がすべてての国において存在すると結論することは出来ない。民主主義とは、一定の社会的条件なしには国民が意識的に参加することが出来ない複雑な過程である。

 ラ米民主主義の正当性への脅威の一つは、公式の選挙民主主義と機能する市民社会に関連する参加形態の欠如との間の深い亀裂である。ラ米には複数の階層の構成員、反発しうる力、広範囲に民主主義を安定させるメカニズムが不在である。この市民参加の低さは、いかに勝ち目がなくても向上させなければならない。

 多くの国において、政治主導者は汚職と誤った政策により信用を失っている。知的資源と、安定した政策の追求を許す世論を喚起できる新しい指導層が育てられなければならない。

 この過程は、社会固有の動きからくる政治制度によって支えられなければならない。その動きとは土着の運動、人権の問題、あるいは生態上の問題など新たな社会的運動である。市民社会では、社会のあらゆる階層の考えが公表される機会を与えられなければならない。このことが社会制度の強力な合法性と先進工業国と交渉するための大きな力を生み出すことになろう。

 二つの基本的原則、すなわち内政不干渉と自決権はラ米の政治システムの礎である。国際的システムへ介入する権利を導入する努力は西側諸国の概念を強いる意図と受け取られている。しかし、国際的合意を通しての統合とは、共通の利益(貿易、教育、通信、科学、環境保全)のための主権をある程度譲ることなしには不可能であることを認識するよう各国政府を促す必要がある。これが共通の利益のために拡大された主権という概念につながる。したがって、特定の立法府の創設を含め、このように委譲された主権を管理し、統制するための最も適切かつ受け入れ得るメカニズムを工夫することが焦点となってくる。

2.国家の役割

新たな国際情勢と前述した挑戦の概説を鑑み、ラ米の新しい制度的枠組みを構築するための努力の一環として、ラ米国家の役割は再定義されなければならない。これは、社会全体と民間部門を引き入れることによって、統治性を高め、再配分を行う国の役割を強め、政府の有効性を高め、正当性を強化することを目標として定める必要性を意味する。国家は、社会変化の代理人としての、さらに統制者としての規制的役割も担わなければならない。

 経済運営に対する政府の過度な直接介入は避けなければならないが、国有会社の民営化自体は最終目的にはなりえない。専売公社は民間の独占会社によって置き替えられてはならないし、外国資本に支配されてもならない。むしろ、目標はより良い公共サービスの提供、競争環境の改善、貧困問題の対応などに置かれるべきである。しかし、すべての国家介入は、特にその国が多民族の場合、法律の規定によって指導されるべきである。

 その他の分野では、特に国内の治安維持、法秩序の行政、および社会投資などに関しては、国家の役割強化が望まれる。政府は、国家の多様な課題、例えば社会開発や変化の指導、社会投資やインフラストラクチャー、効果的な人口規制政策の追求、国際社会との交渉などの対応に市民社会が参加可能なメカニズムを構築するべきである。

 政治的過程と行政の中央集権の度合は、身近な課題に相応していなければならない。移行の過程において、中央集権は国家統合、国家建設、また他国による支配への抵抗などの促進要因となる。これはまた、封建制度の破壊と公正かつ高潔な司法権威の行使を支えるだろう。しかし、貧困と有効的に対処するためには、地方分権の何らかの措置が必要となる。地方分権は、政治、経済、行政上の、特に公共サービスの提供において、再配分過程を促進する。投資の割当の過剰な中央集権は、経済成長を制約する傾向をもつ。地方分権は実行の効率性を高め、国家と国民の関係を改善し、参加要素を強化することに役立つ。

 市民社会の台頭、国家と市民社会の相互補完的役割に関する理解、経済、社会政策に関する合意は、政府と様々な社会的機関やグループとの協定の締結などを通じて強化されうる。

3.統合の追求

 欧州、日本、米国という経済大国に支配されている世界において、ますます弱い立場に追いやられたラ米では、ラ米全諸国がその競争力を高め、国際市場で活躍するために、統合の追求が不可欠である。共通の利点に対する分担および拡大された主権という概念を受け入れることは、統合努力に新しいはずみを与えた。最初の第一歩は、1994年末までに中南米大陸の大部分において商品の自由貿易を可能にする大陸内の商業統合計画を掲げる、1991年のアスンシオン条約である。マクロ経済政策協調と税制調整を含む共同経済市場に対する政治的意志と合意は、一層奨励されなければならない。欧州共同体と同様に、「非ラ米のコスト」に関する包括的な共同研究を、米州開発銀行、世界銀行、国連開発計画(UNDP)、国際通貨基金(IMF)や地域機関と行わなければならない。

 いくつかの地域機関がすでにラ米には存在するが、この研究は全大陸でなく特定の中核グループを軸に、現実的な観点から統合過程が進められうるか否かを検証すべきである。もう一つの選択肢は、既存の地域合意(例えばアンディノ条約、中央アメリカ共通市場、またはメルコ・スール)に沿ってそれらの断片的強化、普及から始め、収束に動くことである。しかし、その様なアプローチの危険性は、紛争につながり、最終的には大陸全体の統合を妨げる。

 欧州共同体の経験は、人権と各国の民主主義慣行の遵守を監視するような政策とメカニズムを採択する統合にもつながる可能性を示唆している。政治指導者と各国政府は、抽象的な主権の概念を掲げることに過剰に関心を抱くよりも、大陸の開発の利益のためにそのような共同作業を受け入れることを公言すべきである。

 さらにラ米諸国は、いかなる形態の統合であろうと、コストの移転と富裕な国から貧しい国への資金の移転などを伴うことを認識しておかなければならない。そのような移転メカニズムなしには、統合は虚無の構想でしかありえない。何年間も統合は、競争力のない部門の縮小や消滅などにより、早急に期待された利点を生み出せずコストを伴うことだけに留まるだろう。

 世界的規模から見て、ラ米が様々な政治経済問題に関する交渉能力と手腕を得るためには、統合だけが唯一の手段である。過去においては、統合への第一歩として、債務危機を共通の交渉の場として打ち出す機会をとらえようとする、政治的意志に欠けていた。豊かな生態系をもつラ米が環境がゆえに、国連環境開発会議(UNCED)に提出される共通の政策に同意できなければ、同様の機会を再び逃すことになる。開発と環境に関するラテン・アメリカ、およびカリブ委員会の報告書「われわれ自身のアジェンダ」は、すべての政府の完全な支援に値する。

IV.世界におけるラテン・アメリカの今後の役割

 ラ米は、世界の平和と安定、および世界経済の回復のために積極的な役割を演じる能力とそのようなイメージを作り出す潜在的可能性を持っている。国連安全保障理事会によって合意された1992年1月の世界安全保障構想の拡大をみても、これは特に真実性がある。同構想は、経済開発、貧困、環境などを含む非軍事的要素も包括する。

 したがって、ラ米全体としては、交渉能力を実行するためにも、政治的経済的統合を通して、自らを編成し始めなければならない。内部調整と共通の政策の選択は、国際舞台で永続しうる役割を演じるための先決条件である。不協和音や不信が統一見解を不可能にするのであれば、国境抗争、貿易紛争、環境問題の波及を含む新たな国内または対外紛争に国際社会は直面せざるをえなくなろう。

 ラ米における市民社会を構成するグループや組織(例えば人権保障や環境問題への認識、社会科学や学会組織など)は、強い地域交流を作り上げることにすでに寄与している。彼らは、地域および国際交流に、さらに参加しかかわり合っていかなければならない。

 南北双方とも、コミットメントの対象的原則、および啓蒙された自己利益に基づいた自然環境に関する、新たに台頭してきた問題の処方箋を追求する責任を分担していくことに合意すべきである。平和、安全、繁栄を危機にさらす、あらゆる闘争の勃発を全員で抑止しなければならない。

 ラ米は、国別または案件別に交渉することに合意してはならない。統合は明らかに有効な交渉の足場のために不可欠である。そして、ラ米が世界の舞台でその他の国々と対等のパートナーになるために、特に欧州共同体などのように、すでに進んだ統合状態にある地域との交渉において、これは必須条件である。 

専門家会議の参加者

I. インターアクション会議のメンバー

Maria de Lourdes PINTASILGO, Prime Minister of Portugal, 1979-80, 議長
Miguel DE LA MADRID HURTADO, President of Mexico, 1982-88
Misael PASTRANA BORRERO, President of Colombia, 1970-74
Pierre Elliott TRUDEAU, Prime Minister of Canada, 1969-79 and 1980-84
Manuel ULLOA, Prime Minister of Peru, 1980-83

専門家

Diego CORDOVEZ (Ecuador), Minister of Foreign Affairs; former Under-Secretary-General, United Nations
Aldo FERRER (Argentina), Professor; Minister of Economy and Labor of the Federal Government, 1970-71; former President, Central Bank of Province of Buenos Aires
Richard FEINBERG (United States), President of the Inter-American Dialogue; former Executive Vice-President and Director of Studies, Overseas Development Council
Wolf GRABENDORFF (Germany), Founding Director, Institute for European-Latin American Relations (IRELA), Madrid
Kaoru HAYAMA (Japan), Managing Director, The Bank of Tokyo Ltd.
Ivan HEAD (Canada), Professor of Law and Political Science, University of British Columbia; Special Assistant to the Prime Minister, 1968-78; former President, International Development Research Centre (IDRC), Ottawa
Enrique IGLESIAS (Uruguay), President, Inter-American Development Bank; former Foreign Minister of Uruguay and former Executive Secretary, ECLAC
Helio JAGUARIBE DE MATTOS (Brazil), Dean, Institute of Political and Social Studies, Rio de Janeiro
Carlos PEREZ DEL CASTILLO (Uruguay), Permanent Secretary of the Latin American Economic System (SELA) 1987-91
Augusto RAMIREZ OCAMPO (Colombia), former Minister of Foreign Affairs; former Assistant Administrator and Regional Director for Latin America and the Caribbean, UNDP
Guadalupe RUIZ-JIMENEZ (Spain), Member of the European Parliament
Jesus SILVA-HERZOG (Mexico), Ambassador of Mexico to Spain; former Minister of Finance and Public Credit 1982-1986
Rodolfo STAVENHAGEN (Mexico), Research Professor, El Colegio de Mexico; currently Tinker Visiting Professor, Stanford University

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